口丹波の方言と訛り
私が生まれ育った口丹波地方は京都に近く,みやこ言葉が多少訛って定着し,方言になったものが多いようである。そのため,優雅で暖かみがある。もちろん
関西一円で使われ,口丹波独特とは言えないものの方が圧倒的に多い。今では地元でも方言が使われなくなっており,私の口丹波方言は幼少時代に友達や近所の
おばさんから聞いてかすかに記憶に残っているものがほとんどある。そういう事情で語彙数が貧弱で不正確だが,60歳を超えて郷愁が募るままに
書き留めておく。また,必ずしも全部が口丹波独特のものではないことをお断りしておく。
口丹波地方の典型的な訛りはザ 行とダ行を混同して,すべてダ行の発音をすることである。この訛りの故に,都会に働きに出た丹波人は馬鹿にされることが多かったので,私が小学生の頃の先 生はこの訛りを矯正するのに躍起であった。最近では田舎に帰ってもこの訛りを耳にすることはほとんどない。むしろ丹波から移住した人の多い京都市の西陣・ 右京区・西京区あたりで聞くことの方が多い。
1967年に西播地方に災害調査 に行った時,当地の小学生が方言を使った作文で被災状況を記しているのを見て目が覚めた。方言でしか表現できないような暖かい人間関係が,地域社会の防災 力の基盤になっていることに気付いたからである。それまでは方言とは撲滅すべきものだと思っていた。
丹波地方の方言については,
「丹波 方言」でインターネット検索するとたくさん情報が得られる。しかし以下ではそれらは参考にしていない。ちなみに京都府側に限った丹波地方は口丹
(または南丹),中丹,奥丹(または北丹)に分けられると考えられるが,現在奥丹とか北丹という呼び名はすたれているようである。口丹波は行政区画として
亀岡市,八木町,園部町,日吉町,丹波町,和知町,瑞穂町を含むものと考えられるが,地理学的範囲はこれとは若干異なるようである。
あけに=朝に(早朝?)
アサジ=(魚の名前)(婚姻色を 呈する)ウグイ
あたんする=(復讐のために)悪 いことをする
イシクジ=(魚の名前)
いぬ(去ぬ)=帰る。古語「去 ぬ」の特殊化?
いらう=いじる,加工する
うかめる=油断する
ウキニガマ=(魚の名前)
うたう=(歌うからの転意?)音 (ね)を上げる,弱音を吐く
うつくしい=清潔な(「美しい」 は「きれい」ということが多い)
馬の金玉=ある灌木の直径5mmほどの丸い実で,熟すると黒くなる。小さいが甘い。子供がおやつに飢えていた時代の天の 恵み。
うむ=(膿むからの転意?)(渋 柿などが)熟して軟らかくなる
えびる(微笑る)=(栗のイガや アケビの果皮などが)熟して開く
えらい=しんどい(疲れた,また は病気で)
えんばと=間が悪くて
おくどさん=かまど(京都ではお くどはん)
刀の木=灌木で左右に対になった葉が出る。一対だけ残してそれを鍔に見立てて木刀を作 る。軟らかく,体に当たってもけがをしないので,チャンバラごっこに愛用した。
カラスのエンドウ=エンドウに似た小さい実を付ける草の名前
かる(借る)=借りる(「かって来る」は「借りて来る」で,「買って来る」ではない。 「買うて来る」は「買って来る」の意)(関西一円?)
河原ショッピン=カワセミ
ギンツ=(魚の名前)ギギ
キツネのこんまき=草の名前
きんのう=昨日(きのう)
グースケハッチョイ=決まり文
句。(いびきをかいて)よく寝ている状態。例:グースケハッチョイの間に猫が・・・
ゲシ=草の名前(鬼野ゲシ?)牛
が好んで食べる。
けなりい=うらやましい
こう=買う(誤用か?「請う」の 転意か?)
コートな=地味で感じがよい(服 装に関する最高の褒め言葉)
ゴミ=グミ(茱萸)が訛ったもの
ゴリン=(魚の名前)カジカ(ゴリから転化?)
こんまき=襟巻き(首巻きの訛り?)
・・・しちゃった=(敬語として)・・・された,(親しい人について)・・・した
(中丹地域では「してやった」と言うらしい。どちらの場合もイ
ントネーションが独特)
・・・してやさかい=(敬語とし て)・・・されたから,(親しい人について)・・・したから
・・・しやはる=(敬語とし て)・・・される
さいなら=さよなら
さぶい=さむい
しける=湿る
しこって(凝って)=いっしょう けんめい
したむ=(押したり握ったりし て)水を取り除く(「絞る」と少し違う動作)
すこい=ずるい(「せこい」が 訛ったもの?)
せばい=狭い
せや=そうや=そうだ(関西一 円?)
せんぐり(千繰り)=ひとつずつ 順番に
せんど(千度)=何回も,長い間
炊く=(食材を)煮る(関西一 円?)
たぼう(たばう)=(消費せず に)蓄える(関西一円?)
ちきしょう=ちくしょう(くやし がるときの言葉)
ちょける,ちょろける=ふざける
つわ=唾
てしょう=小皿(手掌?)
唐鍬=幅が狭く厚みのある頑丈な鍬。ブッキリ鍬が一般的な呼び名らしい。使途はツルハシ に近い。
どうきん=雑巾(ダ行とザ行を区
別しない人が多い。その典型。他地方では標準語とは別の形で区別することがあるらしい)
ドカン=(魚の名前)ヨシノボリ
なま(副詞的に)=不十分に (「生煮え」などの接頭語「なま」と兄弟語?)
ナンバ=とうもろこし(南蛮の訛 り?)
ニガマ=(魚の名前)ハゼの一 種?
ねんねこ=赤ん坊を背負うひも, 帯など一般を指す。
野=畑地や林を主とする平坦地 (ノオと発音)
ハコベ=オオバコ(筆者の誤 用?)
はしこい=敏捷な
はっしゃぐ=はしゃぐ,(豆,穀 物の殻が)カラカラに乾く(脱穀可能になる)
ハメ=まむし
ハヤ=(魚の名前)ウグイ
備中,備中鍬=三つ又の鍬,芋掘 りに適す。
控える=立て替える,掛け売りに する(「記録する」から転意?)
ひっつく=くっつく
ひよこ草=青い小さい花を付ける 草。葉も小さくてひよこが好んで食べる。
フナメ=桑の実(食糧難時代の絶 好のおやつ)
ヘビイチゴ=ドクダミ(金平糖のような実を誤って食べないよう,幼児期に年上の友達から しっかりと叩き込まれた)
へべちゃい=平たい
へんねしい=うらやましい(「け なりい」よりも嫉妬感が強い)
へんねしがる=嫉妬する
ホタルの乳=小さいラッパ状の花をたくさん付け,ラッパ状の花を通じて空気を吸うと,舌 にかすかな甘みを感じる。ホタルが飛ぶ頃に咲く。甘い物に飢えていた時代の子供の好物。
ほどらいこに=ほどほどに
ほる(放る)=投げる,捨てる
(関西一円?)
ほんま=本当(西日本の広域方
言?)
店屋=商店
みてくれ=外見(例:みてくれが 良い)
モト=(魚の名前)カワムツ? (「山本勘助」とも言う?)
やつす=化粧したり着飾ったりす る(健康な丹波人は色黒だから?),やつし=やつす人
ややこ=赤ん坊
よさり=宵または夜(正確な意味
を忘却)
わし(儂)=(女性の一人称)
1900年以前に生まれたおばあさん,おばさんが使っていたのを記憶している。いまでは男性でも使う人が少ない。