「国民保護法までの経過」(2003・4)   
※04年に国会を通過した「国民保護法」は若干異ったものになったが、この法律は紆余曲折があったので、その経過を知るために保存しておくことにする。なお、論評はそのほとんどを「国民保護法」に移し改訂した。

国民保護法制素案 「国民の保護…法制の基本的な構成」
「国民保護法制輪郭 輪郭・国の責任
輪郭・地方公共団体の役割 輪郭・公共機関の役割
輪郭・国民の役割 輪郭・罰則


その1 「国民保護法制素案(8日の全国知事会で小泉首相が発表)   ※番号は筆者が付した。

1基本的考え方
(1)国民の生命、身体および財産を保護するため、国全体として万全の措置を講ずることができるよう必要な規定を整備。
(2)憲法の保障する国民の自由と権利を尊重するとの基本理念にのっとって対処措置に係る規定を整備=対処措置の具体的内容、発動の手続き等を明確化。
(3)武力攻撃事態における対処は国の責任において行われるとの原則に立って国の意思決定の手続きや対処措置に係る負担の在り方について明確化。
(4)この考え方に立って、地方自治体および指定公共機関の責任の範囲が明確になるようできる限り具体的に規定=国の方針に基づいて行う地方自治体の対処措置について、内容や実施に当たって必要となる権限を個別具体的に規定。指定公共機関に実施を求め ることとなる対処措置について、内容を個別具体的に規定。
2 法制の基本的な構成
 「総則的部分」「避難に関する措置」「被害を最小にするための措置」「その他」の四つの部分に大別されるものと想定。包括的な規定を避け、対処措置の内容や関係機関の役割分担等についてできる限リ具体的に規定することから、全体として相当程度大きな法律案となるものと予測。
3 総則的部分
(1)目的
(2)国、地方自治体、指定公共機関等の協力等
(3)社会的弱者の保護、外国人の不当差別の禁止、国際人道法の的確な実施等
(4)都道府県や市町村の対策本部の必要性等
(5)指定地方公共機関の必要性
(6)国民の保護に関する計画等=国および地方自治体の計画等の必要性。計画等の策定手続きおよび調整手続きの必要性。指定公共機関や指定地方公共機関の業務計画の必要性。災害対策基本法の防災会議に相当する機関の必要性
(7)国、地方自治体、指定公共機関等の対処措置等=機関相互の協力関係等。地方自治体間の応援体制等。指定公共機関や指定地方公共機関に対する応援等
(8)国民の協力=国民に協力を求める事務の範囲。住民の防災組織やボランティアに対する支援
(9)その他=各機関における組織の整備等。職員の派遣等。
4 避難に関する措置
(1)警報の発令=内容。伝達
(2)都道府県知事に対する避難措置の指示
(3)住民に対する避難の指示等=内容。伝達
(4)道府県の区域を越えた住民の避難
(5)避難の誘導の主体(市町村長、消防長等)
(6)避難地の確保=広域避難地や近隣避難地の指定
(7)物資および資材の備蓄および供給=緊急物資の備蓄義務、供給義務等。
5 被害を最小にするための措置
(1)市町村長等の応急措置等=応急措置等(危険な物件の除却等)。警戒区域の設定
(2)被災状況に関する情報の収集および報告
(3)輸送および通信の確保=避難住民や緊急物資の輸送の確保。対処措置の実施に係る優先通信の確保等
(4)社会秩序の維持=緊急輸送の確保等のための交通の規制。生活関連施設の安全確保
(5)消防に関する広域応援等
(6)避難住民の救援=主体。内容等
(7)保健衛生の確保=医療の確保。死者の埋葬等。廃棄物の処理
(8)国民生活の安定=国民経済の安定と生活関連物資の確保。ライフラインの確保行政との権利利益の保全。通貨および金融の安定
(9)施設および設備の応急復旧=施設設備の管理者等の応急復旧義務
(10)安否情報の収集等=被災者等の安否情報の提供
(11)原子力施設等の被害防止=原子力施設、放射性物質等の安全確保等。
6 その他
(1)被害の復旧に関する措置=施設設備の管理者等の復旧義務
(2)財政上の措置等=対処措置等の実施に伴う損失補償等。対処措置等の実施に伴う損害補償。対処措置等に要する費用の負担
(3)罰則
(4)付則。

国民の生命財産保護が最優先

   小泉首相が「全国知事会」で発表した「素案」での「基本的な考え方」である。

   一つが「国民の生命、身体および財産を保護する」であり、二つ目が「憲法の保障する国民の自由と権利を尊重する」である。そして、三つ目に、「武力攻撃に対処するのは国の責任において行われることを原則にし、その手続きや対処措置のあり方について明確化する」となっている。

    しかし、前段二つの「国民保護」が、「有事」において目的化されるとは誰も考えていないはずである。「有事」=「戦争」である。戦争状態において、この二つの目的のために国の有事法制が立案されるはずはないし、また達成されることもない。戦争とはそのようなものである。

    「有事法制」に関連して、「国民保護法制」の全体像が明らかにされたのは、この「国民保護法制素案」が最初である。その内容を基本にして条文化するために整理されたのが、次の「国民の保護のための法制の基本的な構成」である。その内容はこの「素案」とほぼ同じであるが、「素案」にはなかった「救援に関する措置」が挿入されている。

その2 「国民の保護のための法制の基本的な構成 ※番号は筆者が付した。

1 総則的部分 4 被害を最小にするための措置
(1)目的
(2)配慮事項
(3)地方公共団体の対策本部
(4)指定地方公共機関
(1)武力攻撃災害への対処
(2)市町村長等の応急措置等
@応急措置等(危険な物件の除却等) 
A警戒区域の設定
(5)国民の保護に関する基本指針・計画・業務計画
@国の基本方針
A国及び地方公共団体の計画
B指定公共機関や指定地方公共機関の業務計画
C地方公共団体や民間機関の意見を聴くための組織
(3)消防
@消防に関する広域応援等
(4)社会秩序の維持
@緊急輸送の確保等のための交通の規制 
A生活関連施設の安全確保
(6)国民の協力
@国民に協力を求める措置の範囲
A住民の防災組織やボランティアに対する国・地方公共団体の支援ほか
(5)衛生の確保
@感染症の予防 
A死者の埋火葬 
B廃棄物の処理
2 避難に関する措置 (6)原子炉等による災害等の防止
@原子力施設、放射性物質その他危険物質等の安全確保等
(1)警報の発令
@警報の発令 
A警報の内容 
B警報の伝達
(7)国民生活の安定
@国民経済の安定と生活関連物資の確保 
Aライフラインの確保 
B行政上の権利利益の保全
C通貨及び金融の安定
(2)対策本部長の避難措置の指示 (8)輸送及び通信の確保
@避難住民や救援のための緊急物資の輸送の確保 
A対処措置の実施に係る優先通信の確保等
(3)都道府県知事の住民に対する避難の指示等
@避難の指示の内容 
A避難の指示の伝達
(4)都道府県の区域を越えた住民の避難
(5)避難の誘導
(9)施設及び設備の応急復旧ほか
5 その他
(6)避難地の確保
@広域避難地や近隣避難地の指定
(1)被害の復旧に関する措置
(2)財政上の措置等
@対処措置等の実施に伴う損失補償等 
A対処措置等の実施に伴う損害補償
B対処措置等に要する費用の負担
(7)物資及び資材の備蓄及び供給
@緊急物資の備蓄義務、供給義務等
3 救援に関する措置
(1)避難住民等の救援 (3)罰則
(4)附則
(2)収容施設の確保
(3)医療の確保
(4)安否情報の提供等

国民保護優先は甘い

    この「基本的な構成」は、「素案」をもとに法制上の体裁を示したものであるが、その構成は内容的には論理的な構成となっている。「国民の生命、身体および財産の保護」と「憲法の保障する国民の自由と権利の尊重」を「基本的考え方」としているために、その構成も、その実現にむけて、地方公共団体や国はどうするか、という展開になる。

 したがって、法制の構成も「目的」「配慮事項」「地方自治体の対策本部」「指定地方公共機関」「国民の保護に関する基本指針・計画」「国民の協力」が柱となっていて、国は「国民の保護に関する…」の中で、どう計画しどう動くのかという位置づけである。つまり、最も国民に近い位置にいる「地方自治体の対策本部」「地方公共機関」がその始めにきていることに特徴があった。

    しかし、この構成の「思い」は理解できるにしても、このような法制の構成は「絵に描いた餅」でしかない。なぜなら、「武力攻撃事態」ではこの法制では機能しないからである。まず、戦争状態において、「国民の生命、身体および財産の保護」と「憲法の保障する国民の自由と権利の尊重」が貫かれることはあり得ないし、百歩譲って仮に貫かれたとしても、このような地方から国への発想に基づく法制では機能しない。戦闘行為を含む戦争行為は多数の意見を集約することでは成立しないからである。

戦争を知らない世代 ?

    「国民保護法制」が成立する過程には、このような戦争に対する認識の甘さが随所に見られた。その意味では、先に提案された「武力攻撃事態等法」の方が正確に表記されているとも言えよう。ちなみに戦前の「国家総動員法」では「国家は戦時に際して…」と国家が主体となることを明確に記述していた。もちろん、戦前の国家主義に基づく戦争国家体制には反対だが、国民の目を誤魔化そうとするような現在の国家権力のやり方に警戒感をもってほしいのである。

    「知事会」は、政府が地方自治体を対象とした最初の説明の会合であった。(有事法制原案)の段階で、地方自治体および国民の反応は厳しいものであったが、その声に応えるためなのか、「有事法制」体系とも思えぬ「国民の生命、身体および財産の保護」と「憲法の保障する国民の自由と権利の尊重」を「基本的考え方」として打ち出してきたのがそもそもの誤魔化しのスタートであった。その証拠に、その後、国会に提出された「国民保護法制輪郭」では、この二つの文言はきれいに消去されていたのである。

その3 「国民保護法制輪郭(11月11日、衆議院有事法制特別委員会)   ※番号は筆者が付し、6つに分けた。

   国民の保護のための法制について
○国民の保護のための法制については、国民の権利・義務とも関係を有し、検討事項も多岐に及ぶことから、地方公共団体、民間機関等の意見を聴き、十分な国民の理解を得つつ整備を進めていくべきものである。そのため、事態対処法案の成立後早急に関係する団体や機関との本格的な調整を進めることとしている。
○この資料は、現段階における国民の保護のための法制の輪郭を示したものである。
1目的
(1)国、地方公共団体その他の機関が相互に協力
(2)国全体として万全な態勢を整備
(3)国、地方公共団体等の責任の所在と権限を明確化
2 配慮事項
(1)高齢者、障害者、乳幼児等社会的に弱い立場にあるものの保護に留意
(2)国際人道法の的確な実施

変身した国民保護法制(輪郭)

    11月11日の「衆議院有事法制特別委員会」に提出された「国民保護法制輪郭」は、その法制の構成を全く変えたものになっていた。現在最も新しい政府の見解は、この「輪郭」であるわけだから(03年11月現在)、これまでに示された「素案」や「構成」を参考にしながら「国民保護法制」に対する政府の意図を明らかにしてみたい。

    「素案」の段階で「基本的考え方」として明確に位置づけられていた「国民の生命、身体および財産の保護」と「憲法の保障する国民の自由と権利の尊重」が消えた。新たに登場したのは、「武力攻撃事態等法案の成立後に本格的な調整」をするという手続き上の文言だけとなっている。そして、「素案」では目的の一つに入っていた「社会的弱者の保護、外国人の不当差別の禁止、国際人道法の的確な実施」が「輪郭」では「配慮事項」に格下げされている。

    しかし、これが「有事法制」の本質だということを、ある意味で納得できる。すなわち、現在の日米安保条約下の日本においての有事法制では、国民の生命、財産、自由と権利を守るために戦争を進めることは不自然であるからだ。政府自ら、日本に攻撃を仕掛けてくる国の存在は考えにくい、と公式発言をしている。そのような状況で、戦争を遂行するために「国、地方公共団体その他の機関が相互に協力 」となっているが、「基本方針」は国が作成することになっているので、ここでの「相互」は事務的な調整という意味でしかないだろう。「国に地方自治体、その他が協力する」や「国が万全の態勢を整える」の方が理解しやすいし、前述したように下手な飾りは付けない方がよい。

「弱者保護」はありえない

    「弱者の保護」は、「配慮事項」となっているが、それは、配慮しないという意味と同様である。戦争状態で、「弱者」が保護されるような状況は存在しえないからである。戦争では常に弱者が最大の被害者となることは、沖縄戦でもそうであったが、ハイテク戦争と宣伝しているアメリカのイラク攻撃においても本質は全く不変である。

   とにかくも、「有事法制」らしい目的が設定されたことになるわけだが、この法制の構成は、機関中心になっている。「素案」が内容に基づく構成であったのに比べると、大きな変化である。もっとも、戦争を遂行するためには機関中心が都合よい。その方が国家(=上部=強い者=大きい者)から地方(=下部=弱い者=小さい者)への命令機能が発揮されやすい。逆だと、民主的原則を踏まえることになり、戦争において最も都合が悪い。そのような観点からしても「輪郭」の構成は、「有事法制」として整っている、と言えよう。ちなみに「素案」に基づく構成と「輪郭」の構成の違いは次のとおりである。

[素案]  「輪郭」
1目的 1 目的
2配慮事項 2配慮事項
3地方公共団体の対策本部 3 国の責任の明確化
(1)国による主導的な対処
(2)国の方針に基づく対処
(3)国による対処措置
(4)地方公共団体等への支援
(5)内閣総理大臣による是正措置(「指示」又は「自ら対処措置の実施」)
4指定地方公共機関 4 地方公共団体の役割
(1)地方公共団体の責任と権限
(2)地方公共団体による避難の措置
(3)地方公共団体による救援
(4)地方公共団体による被害を最小にするための措置
5国民の保護に関する基本指針・計画・業務計画
(1)国の基本方針
(2)国及び地方公共団体の計画
(3)指定公共機関や指定地方公共機関の業務計画
(4)地方公共団体や民間機関の意見を聴くための組織
5 指定公共機関等の役割
(1)指定公共機関の対処措置
(2)指定地方公共機関の措置
6国民の協力
(1)国民に協力を求める措置の範囲
(2)住民の防災組織やボランティアに対する国・地方公共団体の支援ほか
6 国民の役割
(1)国民の協力
(2)国民の権利及び義務に関する措置
7 その他

   一目瞭然であろう。以下中項目ごとに具体的に見ていこう。

輪郭・国の責任の明確化

3 国の責任の明確化 (1)国による主導的な対処
@国の「基本方針」の策定
A対策本部長による都道府県知事に対する避難措置の指示
B地方公共団体の経費の国費負担
(2)国の方針に基づく対処
@指定行政機関及び指定地方行政機関の計画
A都道府県及び市町村の計画
B指定公共機関及び指定地方公共機関の業務計画
C地方公共団体や民間機関の意見を聴くための組織
(3)国による対処措置
@対策本部長による警報の発令
A原子力施設、放射性物質その他危険物質等の安全確保等
B国民生活の安定のための措置
C政令の制定
(4)地方公共団体等への支援
@避難住民等の救援に必要な物資及び資材の供給並びに救援に関する必要な支援
A大規模な武力攻撃災害への対処
B応急復旧に係る必要な支援
(5)内閣総理大臣による是正措置(「指示」又は「自ら対処措置の実施」)
@住民の避難の指示に関する措置
A住民の避難の誘導に関する措置(「指示」のみ)
B都道府県の区域を越えた避難に関する措置
C避難住民等の救援に関する措置
D武力攻撃災害への対処に関する措置
E避難住民又は救援のための緊急物資の運送に関する措置(「指示」のみ)
F公共施設の応急復旧に関する措置(「指示」のみ)

国主導が前面に出る

    さて、「有事法制」における「国民保護法制」の骨格が、国主導で形成されるという法制化された形で整ったが、その内容については明らかにしなければならない。「国の責任の明確化」の下で、「国による主導的な対処」「国の方針に基づく対処」「国による対処措置」「地方公共団体等への支援」「内閣総理大臣による是正措置」の五項目が設定されている。

 まず国が「基本方針」を作成し、その方針に基づく権限を国自ら発動するもの、また、その一部を指定行政機関や都道府県等に移すもの、さらには指定公共機関に移すものというように分かれている。もちろん委譲された権限の不履行は免れない仕組みになっている(「(5)内閣総理大臣による是正措置」)。

 国が「基本方針」に何を盛り込むかは今後のことである(03年11月現在)が、そのベースは「武力攻撃事態等法」に敷かれていると考えた方がよい。つまり、「武力攻撃事態等」の名によって、国は国民をどうしょうとしているのか、という点に集約される。したがって、この項目については、「武力攻撃事態等法」を参考にしてほしい。 

                                                                                               参照 「国民保護法」


輪郭・地方自治体の役割

4 地方公共団体の役割 (1)地方公共団体の責任と権限
@都道府県及び市町村の対策本部の設置(閣議決定で指定されたものに限る。)
A都道府県知事による住民の避難の指示、避難住民等の救援、武力攻撃災害への対処等の実施
B市町村長による住民の避難の誘導、武力攻撃災害への応急措置、消防、廃棄物の処理等の実施
(2)地方公共団体による避難の措置
@都道府県知事による住民に対する避難の指示
A都道府県の区域を越えた避難の際の避難先の都道府県への要請
B市町村長等による住民の避難の誘導
C都道府県知事及び市町村長による避難地の指定
D避難住民等の救援に必要な医薬品、食糧等の物資及び収容施設の建設のための資材等の備蓄
(3)地方公共団体による救援
@都道府県知事による避難住民等の救援の実施
A都道府県知事による救援に必要な物資の保管命令、売渡し要請又は収用
B都道府県知事による収容施設の確保(土地、家屋等の所有者に対する要請又は使用)
C都道府県知事による医療関係者等に対する医療の提供の要請又は指示
D都道府県知事による医療施設の確保(土地、家屋等の所有者に対する要請又は使用)
E総務大臣、都道府県知事及び市町村長による避難住民等の安否情報の収集及び提供
(4)地方公共団体による被害を最小にするための措置
@武力攻撃災害への対処
ア、都道府県知事による武力攻撃災害(火災、水害、建物の倒壊等)への対処
イ、都道府県知事による市町村長への指示
A市町村長等の応急措置
ア、武力攻撃災害が発生し、又は発生しようとしている場合の応急措置
イ、警戒区域の設定
B消防
ア、消防による火災からの国民の保護、武力攻撃災害の防除
イ、都道府県知事による市町村長等への指示
C社会秩序の維持
ア、都道府県公安委員会による緊急輸送確保等のための交通の規制
イ、警察官の通行禁止区域等における車両の運転者等に対する指示及び措置
ウ、生活関連施設の安全確保の強化(管理者への支援、立入制限区域の設定等)
D衛生の確保
ア、廃棄物処理の特例

国の方針で命令は市町村長

    「地方公共団体の役割」としては、上表の(1)から(4)まで四項目が設定されているが、もちろん都道府県と市町村においてはその対処が異なることは当然である。例えば、国の「基本方針」に基づき、都道府県や市町村はそれぞれ「対策本部」を設置することになるが、その「対策本部」によって対処される事項は、都道府県知事は「住民の避難の指示」「避難民の救援」「武力攻撃災害への対処」等となり、市町村長はそれを受けて、「住民の避難誘導」「武力攻撃災害への応急措置」等となる。

    以上は、「避難」を例にとった命令系統であるが、「避難の措置」には、当然のように、「避難場所」の指定と確保、医薬品、食糧、収容施設の確保等がある。それらも都道府県と市町村における役割となる。また、「避難」とは別に「救援」がある。「救援」の対処には、物資の保管命令、物資の売り渡し要請(または収容)、避難施設の確保(土地や家屋)、医療関係者による医療提供の確保、同様に医療施設の確保(土地・家屋)、避難住民の安否情報の収集と提供などがある。これらについては、国民の生活や人権と関わることがらがあり、重要な内容を含んでいる。さらに、「被害を最小にするための措置」として、武力攻撃災害への対処、その応急措置、警戒区域の設定、消防、武力攻撃災害の防除、緊急輸送のための交通規制、その他と続くことになる。

                                                                                 参照「国民保護法-地方公共団体の責務」

輪郭・指定公共機関の役割

   指定公共機関というのは、その事業内容が公共性をもつもので、たとえば、通信、電気、交通、放送などを指し、それらのうち有事法制に際して指定を受けた機関のことをいう。

   戦前は、「国家総動員上必要な」という冠詞をつけて「国家総動員業務」として指定された。具体的には、生産、修理、配給、輸出、輸入、保管に関する業務、運輸、通信、金融、衛生、家畜、衛生、救護、教育訓練、試験研究、情報、啓発宣伝、警備が挙げられ、最後に「国家総動員上必要な業務」が追加された。要するにすべてである。近代戦争が総動員戦争であってみれば当然のことである。

   今回は、下記の表に記載された一部の業務になっているが、法整備の段階で増えていくことは必須である。

5 指定公共機関等の役割 (1)指定公共機関の対処措置
@放送事業者による警報の内容及び避難の指示の内容の放送
A日本赤十字社による医療その他の救援の協力並びに外国人に係る安否に関する報の収集及び提供
B電気事業者、ガス事業者等による適切な供給の実施
C日本銀行による通貨・金融の調節及び信用秩序の維持
D運送事業者による避難住民又は救援のための緊急物資の運送
E電気通信事業者による通信の優先的取扱い など
(2)指定地方公共機関の措置-都道府県知事による指定地方公共機関の指定
@放送事業者による警報の内容及び避難の指示の内容の放送
Aガス事業者による適切な供給の実施
B運送事業者による避難住民又は救援のための緊急物資の運送

    以上、「輪郭」に表記された法制は、上部機関から下部機関への命令系統を明確に位置づけ、国の「基本方針」がスムースに国民へ徹底される仕組みを明らかにしたものとなっている。

    なお、都道府県知事や市町村長、指定公共機関等が「武力攻撃事態」の中で、国民に対し具体的にどうするのか、については今後のそれぞれの機関の「保護計画」や「業務計画」によるがその方向性は「国民保護法」の各章を参照してほしい。 
                                                                       
輪郭・国民の役割

6 国民の役割 (1)国民の協力
@国民に協力を求める措置の範囲
ア、避難住民等の救援の援助
イ、消火活動、負傷者の搬送又は被災者の救助の援助
ウ、保健衛生の確保の援助
エ、避難に関する訓練への参加
A住民の自主的な防災組織やボランティアに対する国・地方公共団体の支援
(2)国民の権利及び義務に関する措置
@事業者に対するもの
ア、都道府県知事による医薬品、食品その他救援のための緊急物資の保管命令、売渡し要請又は収用
イ、都道府県知事による医療関係者等に対する医療の提供の要請又は指示
A土地所有者、施設管理者等に対するもの
ア、都道府県知事による収容施設の確保及び医療施設を開設するための土地、家屋等の確保
イ、市町村長による武力攻撃災害時の土地、建物等の使用又は物件の使用若しくは収用
B国民一般に対するもの
ア、武力攻撃災害が発生するおそれのある異常な現象を発見した者による市町村長等への通報
イ、市町村長の応急措置について現場にある者等への協力要請

あたり前のことを餌に国家従属へ

    さて、国は国民一人ひとりに何を求めているのか、また、われわれは何を国の施策に見いだして対処する必要があるか、その大筋が見えてきた。

    国が国民に求めている内容が14項目あるが、ここに記述されている「協力を求める措置」「権利及び義務に関する措置(強制力を伴う)」の項目は、一部を除いて現行法(主として「災害対策基本法」)によっても行われているものである。それなのに、なぜ「有事法制」の中にそれらの項目を盛り込もうとするのだろうか。そこに問題の根源は潜んでいる。

    人はだれでも、災害が起これば、「避難住民の救援」を援助したり、火災があれば「消火活動」を支援したりする。また、事故が起これば「負傷者搬送」の手助けもするし、火災や地震を想定して「避難訓練」もする。したがって、国民として主体的に関わっていることがらを並べ立てられると、当たり前の感覚で受けとめてしまいかねない。しかし、それはとんでもない結果を招くことになる。

 現在行われている上記の内容が、「有事法制」の中に組み込まれるとどこがどう変わっていくのかを見極めなければならない。「現行法でも対応できる」と言ったのは高知県知事だが、あえて、法制化しようとする国の意図はなんだろうか。

 「武力攻撃災害が発生するおそれのある異常な現象を発見した者による市町村長等への通報」のことについて触れる。これは、初めて登場する文言である。「輪郭」には「武力攻撃災害」という用語についての説明はない。したがって私見で言えば、「武力攻撃事態等」における「武力攻撃」に伴う災害(火災、水害、建物の倒壊等)と理解する。問題はその中の「発生のおそれのある異常現象を発見」である。つまり、「武力攻撃災害」が発生する前の予想・予感・推測ということになるのだが、自然災害ではないのだから、「西の空が暗褐色だった」とか「動物が大量移動した」なんてことではない。

有事は国内にもある ?

    「有事法制」における「武力攻撃」は外国からのものだけではない、という判断がここにはある、と考えた方が論理的である。なぜなら、この項目は国民の権利と義務となっているから、国内での「異常現象の発見」でなくてはならない。つまり、「国内での武力攻撃事態(内乱)」をも想定し、そのための「有事法制」であると解釈した方がすっきりする。 「武力攻撃事態等法」には次の条文がある。

第25条 政府は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保を図るため、武力攻撃事態等以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態に迅速かつ的確に対処する。
2 政府は、前項の目的を達成するため、武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生等の我が国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、次に掲げる措置その他の必要な施策を速やかに講ずるものとする。
一情報の集約並びに事態の分析及び評価を行うための態勢の充実
二各種の事態に応じた対処方針の策定の準備
三警察、海上保安庁等と自衛隊の連携の強化

 したがって、「武力攻撃事態等法」は、必ずしも「我が国に対する外部からの武力攻撃」(武力攻撃事態の定義)だけを想定しているわけではないのである。この「以外」は何を想定しているのだろうか。条文は、その2項に「武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生等」という条項を記載している。つまり、それら、特に「テロ」を口実にすれば、国内においても「有事法制が発動できる仕組みをこの法制はもっているのである。その根拠となるのが書きの「自衛隊法」の三条項である。条文の解釈をいかようにもすればそれは戦前の治安出動と重ならざるを得ない。

※ 「戦争法案」だといいながら、「不審船」も「テロ」もごちゃ混ぜにして法制化しようとする政府の意図については、「武力攻撃事態等法」を参照にしてほしい。                                    
 
自衛隊が国民を武力鎮圧も

 また、「自衛隊法」には次のような条文があり、「間接侵略その他の緊急事態」「治安維持上の重大な事態」「政治的主義主張等による危険」によっても自衛隊を出動させることができるとある。

第78条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
第81条 都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し部隊等の出動を要請することができる。
第81条の2 内閣総理大臣は、本邦内にある次に掲げる施設又は施設及び区域において、政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、当該施設又は施設及び区域の警護のため部隊等の出動を命ずることができる。

輪郭・その他罰則等

7 その他 (1)復旧に関する措置
(2)損失補償等
(3)損害補償
(4)対処措置等に要する費用の負担(前出)
(5)罰則
@保管命令に違反して救援のための緊急物資を他に転売するなどの経済的違反行為
A原子炉等取扱いに高度の注意義務を要するものに対する被害防止のための措置命令違反、
B警戒区域等の立入制限に対する違反などについては、規制の効果を担保する観点から罰則を置くことを検討

罪ではないが罰する ?

    「保管命令に違反」は、都道府県知事による救援物資の転売違反であり、「原子炉等の措置命令違反」は、国による安全確保に伴う違反である。また、「警戒区域等の立入違反」は、「社会秩序の維持」のための「立入制限区域の設定等」に対する違反である。

    国民に対する直接的罰則は、@とBとなるが、特にBは、すべての国民が該当するものである。しかも、「警戒区域等の立入制限に対する違反など」として他も匂わせていること、また「規制の効果を担保する観点」によっての「罰則」規定となっていること。つまり、本来の罪ではないがこの罰則規定を設けた方が効果がある、というものである。裏を返せば、どんなものにでもこの規定を張り付けることができる代物である。

    問題は、ここに記載されていることだけのものではないということである。前述したように、法律の改正はどのようにでもできるものであることを念頭におかなければならない。現に、「武力攻撃事態等法案」においては、包括的法案にも関わらず「罰則」条項はなかったが、今回登場の「国民保護法制輪郭」には「素案」の段階から「罰則」規定が盛り込まれている。さらに「自衛隊法」おいても、これまでなかった民間を対象にした「罰則」条項が「有事法制」による改正案で登場してくるのである。
                                   →参考「災害救助法第4章罰則


[参考]「災害救助法

第4章罰則

第45条 左の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
1. 第24条第1項又は第2項の規定による従事命令に従わない者
2. 第23条の2 第1項又は第26条第1項の規定による保管命令に従わない者 
第46条 詐偽その他不正の手段により救助を受け、又は受けさせた者は、これを6箇月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。その刑法に正条があるものは、刑法による。
第47条 第23条の3第1項、第2項若しくは第27条第1項、第2項の規定による当該官吏若しくは吏員の立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は第23条の3第2項若しくは第27条第2項の規定による報告をなさず、若しくは虚偽の報告をなした者は、これを3万円以下の罰金に処する。 
第48条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関し第45条又は前条の違反行為をなしたときは、行為者を罰するの外、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する

[参考]
第23条の2 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長は、防災業務計画の定めるところにより、救助を行うため特に必要があると認めるときは、救助に必要な物資の生産、集荷、販売、配給、保管若しくは輸送を業とする者に対して、その取り扱う物資の保管を命じ、又は救助に必要な物資を収用することができる。
第23条の3 前条第1項の規定により物資の保管を命じ、又は物資を収用するため、必要があるときは、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長は、当該官吏に物資を保管させる場所又は物資の所在する場所に立ち入り検査をさせることができる。
2 指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長は、前条第1項の規定により物資を保管させた者から、必要な報告を取り、又は当該官吏に当該物資を保管させてある場所に立ち入り検査をさせることができる。
第24条 都道府県知事は、救助を行うため、特に必要があると認めるときは、医療、土木建築工事又は輸送関係者を、第31条の規定に基く厚生労働大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、医療又は土木建築工事関係者を、救助に関する業務に従事させることができる。
第26条 都道府県知事は、救助を行うため、特に必要があると認めるとき、又は第31条の規定に基く厚生労働大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、病院、診療所、旅館その他政令で定める施設を管理し、土地、家屋若しくは物資を使用し、物資の生産、集荷、販売、配給、保管若しくは輸送を業とする者に対して、その取り扱う物資の保管を命じ、又は物資を収用することができる。
第27条 前条第1項の規定により施設を管理し、土地、家屋若しくは物資を使用し、物資の保管を命じ、又は物資を収用するため必要があるときは、都道府県知事は、当該吏員に施設、土地、家屋、物資の所在する場所又は物資を保管させる場所に立ち入り検査をさせることができる。
2 都道府県知事は、前条第1項の規定により物資を保管させた者から、必要な報告を取り、又は当該吏員に当該物資を保管させてある場所に立ら入り検査をさせることができる。


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