第6章 自衛隊の行動                   法律名は略称で記述してあります。

改正前 改正後
防衛出動
第76条 内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃(外部からの武力攻撃のおそれのある場合を含む。)に際して、わが国(字句訂正)を防衛するため必要があると認める場合には、国会の承認(衆議院が解散されているときは、日本国憲法第54条に規定する緊急集会による参議院の承認。以下本項及び次項において同じ。)を得て、(削除)自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。ただし、特に緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで出動を命ずることができる。(削除)
防衛出動
第76条 内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃(外部からの武力攻撃のおそれのある場合を含む。)に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
2 前項ただし書の規定により国会の承認を得ないで出動を命じた場合には、内閣総理大臣は、直ちに、これにつき国会の承認を求めなければならない。 (削除)
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又は(削除)出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。 2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。

[解説]自衛隊の出動命令についての事前の国会承認事項を削除し、「武力攻撃事態(おそれを含む)」の解釈の曖昧さを残したまま、総理大臣の判断に委ねたことが改悪のポイントとなっている。「旧条項」であった「緊急性」という歯止めがなくなった分、総理大臣の判断次第で自衛隊出動が可能になったといえよう。

改正前 改正後
防衛出動待機命令
第77条 長官は、事態が緊迫し、前条第1項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、これに対処するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる。
防衛出動待機命令
第77条 条文同じ
改正後(新)
防御施設構築の措置(新)
第77条の2 長官は、事態が緊迫し、第76条第1項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、同項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域(以下「展開予定地域」という。)があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設(以下「防御施設」という。)を構築する措置を命ずることができる。

[解説]
 新しく追加された条項によって、旧条文の自衛隊出動「待機命令」から、一歩も二歩も踏み込んだ命令が出せるようになった。つまり、「出動」が「予測」される状況で、「出動」が命ぜられ、出動業務を「展開」させることを「見込み」、かつ「防備をあらかじめ強化」することを想定して、出動「待機」命令が下されることになっている。交戦を想定した条項といえよう。そのことは、第76条1項の規定と重ね合わせれば、先制攻撃や徴発行動が可能になったとも言える。

    国会審議において、政府答弁ではこのことを否定しているが、条文は、提案時や成立時の解釈で発動されるとはかぎらない。そのことは、過去の重要法制に対する政府答弁が明白に物語っている。憲法第9条に対する政府答弁の変節がその最たる例といえよう。一字一句といえども、その解釈の成立する余地がある時は、権力の有利になる運用をしていくのが国家権力である。法制運用の末端ではどのようなことが行われたのか、今こそ沖縄戦の体験を歴史の教訓として生かさなければならない。

    ここで思い起こすのは、太平洋戦争開始の昭和天皇の「宣戦布告」である。そこには次のようなことが、国民に向けて発せられていた。

…我が国がアジアの平和の安定に努力を注いだにも関わらず、中華民国が日本と戦火を交えたから日中戦争は起こり、太平洋戦争は、アメリカやイギリスがアジア近隣諸国と一緒になって我が国の周辺に軍備を増強し我が国を脅威に陥れ、我が国の存亡があやしくなったので、やむを得ず始めるのだ…。
                                                                          参照「太平洋戦争宣戦布告の詔書

 このように、国際関係は、当該国の状況の判断によって自国(国家権力)に有利な解釈をするものであり、その判断が事実を覆い隠すことだって多々あるのだ。上記の「宣戦布告」はそのことを如実に物語っているが、同様なことは常に国際関係においては存在する。
 もう一点は、この条文には、1999年の国会で多数派による強行採決で成立した「周辺事態法」との関連で、アメ リカ軍支援の側面が隠(画)されていることである。つまり、「周辺事態法」によって出動した自衛隊に対して「第77条・第77条の2」の状況が生まれる危険性がこの条文には存在している。「周辺事態法」が引き金になり、今回の改悪される「第77条・第77条の2」に連動していくことも十分予想される。

   具体的なことを言えば、「展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設を構築」が「武力攻撃事態等法」や「国民保護法」などで記述された「土地や建物等の収用」という条文と連動するのである。沖縄戦では、「陣地構築」という名称を使い、住民の土地(畑・田・屋敷等)、建物が強制的に収用された。もちろん、名目上は「法制」による買収であったが、しかし、結果的には強制収用であった。しかも、軍と住民をつなぐ役目を役場が受け持ったことである。今回の「有事法制」においても地方公共団体の長がその役目を担っている。
                                                                                参照「沖縄戦では」「自衛隊法第8章

改正後(新)
(防衛出動下令前の行動関連措置)
第77条の3 …武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い…物品の提供を実施することができる。
2 …武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い…防衛庁本庁の機関及び部隊等に行動関連措置としての役務の提供を行わせることができる。

 [解説]  新しく米軍との関係行動が生まれたことを示す条文である。この条文は、日米安保条約に基づくもので、今回の有事法制ばかりでなく、「周辺事態法」とも連動していくものである。しかも、「防衛出動命令」の予測段階から発動できることになっている。

   その内容は一つがアメリカ軍に対する「物品の提供」であり、もう一つが「役務の提供」である。詳しいことは「米軍支援法」の項で述べるが、物品の中には今回新しく「弾薬」が追加された。また、物品だけでなく、「役務」の提供も行われることに注目したい。つまり、「防衛庁本庁の機関及び部隊等」がその任務を果たすわけであるが、それは、米軍の行動に対して何らの制約・制限もないことである。

改正後(新)
(国民保護等派遣)
第77条の4 長官は、都道府県知事から武力攻撃事態等における国民の保護のため…部隊等を派遣することができる。
第83条 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、…部隊等の派遣を…要請することができる。
2 長官又はその指定する者は、…部隊等を救援のため派遣することができる。
3 (略)
4 (略)
5 第1項から第3項までの規定は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第2条第4項に規定する武力攻撃災害及び同法第181条第2項に規定する緊急対処事態における災害については、適用しない。

 [解説]  有事の場合における「国民保護」のための自衛隊の派遣条項である。この条文も今回追加された条項である。「国民保護法」の論議のなかで、都道府県知事等からの強い要請によってできた条文だと言われる。それだけ、民間サイドでは、不安感があることを示しているのだが、この条文が発動される確率は極めて低い。本来、自衛隊だけでなく、軍隊は国民を守るものではなく国(国家権力・国家体制・国体)と国土(領土)を守るものである。「国民を守る」という「国民」は国家を構成する抽象化された国民のことであって、一人一人の具体的な「あなた」や「私」の国民ではない。現に「自衛隊法」における「自衛隊の任務」にもどこにも「国民」は出てこない。

第3条  自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。
(服務の本旨)
第52条  隊員は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結…

   また、二十数万の自衛隊が有事に際して、敵と戦うことの本務に、さらに、米軍への「物品」「役務」の提供もしなければならないから、本務でもなく、訓練もしていないので、実際問題としても不可能である。この条文を発動させるにはより多くの軍隊(人)が必要であるし、訓練も必要である。国家権力の要人にはそのための「国民皆兵」は視野に入っているかもしれない。その前に、地方自治体の長たちが、あり得ない戦争状況における国民の保護という見当違いの「自衛隊派遣要請」の持つ矛盾に気がつかなければならない。 

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