第7章 自衛隊の権限               法律名は略称です。

防衛出動時の権限

第92条  第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、第88条の規定により武力を行使するほか、必要に応じ、公共の秩序を維持するため行動することができる。
改正前 改正後(新)
防衛出動時の公共の秩序の維持のための権限
第92条の2 第79条の2の規定による情報収集の職務に従事する自衛官は、当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
治安出動下令前に行う情報収集の際の武器の使用
第92条の5 「 条文同じ」
改正後(新)
防衛出動時の緊急通行
第92条の2 第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、当該自衛隊の行動に係る地域内を緊急に移動する場合において、通行に支障がある場所をう回するため必要があるときは、一般交通の用に供しない通路又は公共の用に供しない空地若しくは水面を通行することができる。この場合において、当該通行のために損害を受けた者から損失の補償の要求があるときは、政令で定めるところにより、その損失を補償するものとする。
国民保護等派遣時の権限
第92条の3 警察官職務執行法第4条、第5条並びに第6条第1項、第3項及び第4項の規定は、警察官がその場にいない場合に限り、第77条の3の規定により派遣を命ぜられた部隊等の自衛官の職務の執行について準用する。
展開予定地域内における武器の使用
第92条の4 第77条の2の規定による措置の職務に従事する自衛官は、展開予定地域内において当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

[解説]
 追加された第92条の2は、出動命令を受けた自衛隊が緊急移動する際の条項であるが、「損失を受けた者の損失の補償」とあることから、明らかに民間地の使用を想定している。緊急移動であれば、当然最短距離を移動することであり、そのために民間地を使用することとなり、いわゆる「そこのけそこのけ自衛隊が通る」ことを示している。これは、別項で述べる自衛隊法第103条1項〜19項及び第103条の21項〜4項においてさらに具体化されて国民の命と生活と財産を脅かすことにつながっている。

 また、追加された第92条の3は、「展開予定地域」における条項で、「攻撃事態」を予想しての展開であることから、ここでいう「当該職務」とは武力攻撃事態を想定した「陣地構築」等をさしている。したがって、この段階での武器の使用というのは、国民に向けた矛先というほかはない。国民の思想信条を無視し、「展開予定地域」における自衛隊への協力に強制力をもたせる武器使用になりかねない。国民に向かって自衛隊が銃口を向けるということがあり得るのである。

   仮に、国民に対しての矛先でないとするならば、この「展開予定地域」は外国ということになり、この法案の提案理由からして矛盾することになる。いずれにしても、旧条文の「治安出動」時の武器使用(改正前第92条の2、改正後第92条の4)をさらに一歩踏み込んだ戦争条項となっている。

治安出動時の権限

   一方、「武力攻撃事態等」に伴う出動による「必要な武力を行使」する他に、「必要に応じ、公共の秩序を維持するための行動」もとることができるようになった。つまり、「有事法制」によって自衛隊の「武力行使」の領域がさらに拡大されたことを意味する。「必要に応じ」の部分は以下に述べる通りであるが、有事法制により出動を命ぜられた自衛官が、有事における治安を担当する警察官や海上保安官と同様な武器の使用を執行する。つまり、自衛隊が、有事を理由に出動したとき、陸・海上での「警察官」や「海上保安官」の「治安」における職務の領域にまで自衛官が入り込むことを示している。軍隊が「治安」領域でその権限を行使することは戦前の状況を再現することと同じである。
ちなみにこの場合の「自衛官」による「治安上」の武力行使の職務は次の通りである。

(整理)次の理由があるとき、武器を使用することができる。
1 警護する人や施設、物件が暴行や侵害を受けたり、受ける危険がある場合。
2  多衆集合して暴行や脅迫をしたり、しようとする危険がある場合。
3 小銃、機関銃(機関けん銃)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持したり、していると疑うに足りる相当の理由のある者が、暴行や脅迫をしたり、する高い蓋然性がある場合。

国民保護等派遣時の権限(自衛隊法第92条の3)

状 況 権 限
警察官 ・天災、事変  
・工作物の損壊
・交通事故
・危険物の爆発
・狂犬・奔馬の類等の出現
・極端な雑踏等

・事物の管理者
・関係者
・危害を受ける虞のある者
警告引き留め避難
危害防止の措置命令
自らその措置をとる
・犯罪を予測
・損害を受ける虞
・関係者 警告
・危険な事態の発生
・危害が切迫
・他人の土地
・建物
・船や車
立ち入る
・犯人逮捕・逃走防止
・自己や他人の防護
・公務執行に対する抵抗の抑止
・武器の使用
海上保安官 ・犯人逮捕・非常事変 ・付近の人・船舶 協力を求める
・海上犯罪
・天災事変
・海難
・工作物の損壊
・危険物の爆発等
・船舶の進行の開始、停止、出発差し止め
・航路の変更、船舶の移動
・乗組員等の下船、下船の制限・禁止
・積荷の陸揚げ、陸揚げの制限・禁止
・他船・陸地との交通の制限、禁止
・その他
・海上犯罪が明らかな場合
・公共の秩序が乱されるおそれ
・船舶進行の開始、停止、出発差し止め
・航路の変更、船舶の移動

[解説]
     「武力攻撃による出動」とは別に、「国民保護法」によって出動した自衛隊の権限は、自衛隊法第92条の3によって発動されるが、その場合に、準用される「警察官職務執行法」(第4条、第5条、第6条第1項、第3項、第4項、第7条)と「海上保安庁法」(第16条)を整理したのが上記の表である。上記の「警察官」「海上保安官」の職務を(陸上においては警察官・海上においては海上保安官)が「その場にいない場合に」自衛隊がその職務を執行できるようにするということである。その内容は、(あらゆる天災人災を含む)危険な事態が発生すると認められた場合、(またはそのおそれのある場合)においての職務の権限と言うことになるが、ここでも自衛隊が治安のために出動することになる。

武力攻撃災害派遣時等の権限
これは武力攻撃災害における出動した自衛隊の権限である。

改正後(新)
第94条の2 自衛官は、…(1)避難住民の誘導に関する措置、(2)応急措置等及び(3)交通の規制等に関する措置をとることができる。

[解説]
   軍隊は国民を守らないことは先述したが、当然のように、有事の場合では尚更である。したがって、住民の避難誘導は主として民間が主体となる。
(1)「国民保護法」が発動され、住民の避難誘導に関して自衛隊の権限が関わるのは、以下の通りである。

権限 執行者 権限 対象者(物) 権限 対象者(物)
市町村長 @指揮⇒ 職員
消防長
消防団長
B警告⇒
C指示⇒

D協力要請⇒
危険を生じさせる者
危害を受けるおそれのある者
その他関係者
避難住民
その他
E立入禁止⇒
F退去⇒
G除去⇒
Hその他⇒
危険な場所

危険車両等
その他
A要請⇒ 警察官
海上保安官
自衛官(※)
(※)E〜Hに関して自衛官は警察官及び海上保安官がその場にいない場合のみできる。

(2)応急措置等に関しても同様、主として自治体、消防、警察、海上保安庁等の職務となっている。したがって、自衛隊がこの任務につくのは、「市町村長の退避の指示等」「警戒区域の設定」の二項で、職務を執行する者が現場にいない場合に限りの「職務の執行」となる。

(3)交通の規制等に関する措置に関しても、警察官がその場にいない場合に限って適用される。ちなみに、準用される「災害対策基本法」76条以下の条文を読替え整理すると次のようになる。

自衛官は、通行禁止区域等において、車両その他の物件が自衛隊用緊急通行車両の通行の妨害と認めるとき、車両その他の物件の占有者、所有者又は管理者に対し、移動やその他を命ずる。
命ぜられた者がその措置をとらないとき又は命令の相手が現場にいないときは、自らその措置をとる。この場合、自衛官は、それに係る車両その他の物件を破損できる。

緊急対処事態時の権限

改正後(新)
第94条の2
2 次に掲げる自衛官は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律及びこれに基づく命令の定めるところにより、同法第8章に規定する緊急対処事態に対処するための措置をとることができる。

・長官は、武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い…役務の提供を行わせることができる。
・命令による治安出動…内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
・要請による治安出動…内閣総理大臣は、要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。

[解説]
   「国民保護法」第8章の新設によって新しく「緊急対処事態」という概念が登場した。条文からその意味を整理すると「武力攻撃に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する事態又は殺傷する危険が切迫していると認められるに至った事態(武力攻撃事態であることの認定が行われることを含む)で、内閣総理大臣が認定したもの」となる。

   「武力攻撃事態等」との違いは、殺傷の手段が「武力による」か「準武力による」かの違いである。「準ずる」ものが何を指しているのかは不明で、しかも、「予測的事態」も含まれている。ただでさえ、概念の曖昧さが指摘されている有事法制のなかで、この「緊急対処事態」によっていよいよ雑然となり、法の運用において、あるいは、「緊急対処事態に対処するための措置」を講じなければならない地方公共団体等においてのさらなる混乱が予想される。

   さらに、この章は「国民保護法」の末端に追加的に入れたものであって、内容的には、「国民保護法」の第7章までの条文と重なり、その追加、その「読替え」とともに「準ずる」条文が多く、「国民保護措置」を「緊急保護措置」と置き換えなければならないなど、用語だけでも煩雑で整理されていない。したがって、自衛隊の権限においても「国民保護法」におけるものとほとんど同様とみて良いだろう。

捕虜等の取扱いの権限

改正後(新)
第94条の6 自衛官は、武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律の定めるところにより、同法の規定による権限を行使することができる。

[解説]
   「ジュネーヴ条約」などに基づき今回新しく法制化された「捕虜取扱法」に基づく自衛隊の権限条項である。これまで「戦争をする」ということそのものを憲法によって禁じられ、政府も解釈上は自衛隊の権限を拡大してきたが、それでもなお、「戦争をする」という具体的な認識はなかった。したがって、「捕虜の取扱等に関する国際条約」に基づく国内法の整備もその必要がなかった。しかし、今回の有事法制の一貫として国際条約に基づく法の整備を図ることは、国家権力が戦争のできる国家を目指していることが本物であることを示す一つの目安となる。

  「捕虜」に関する自衛官の権限であることから国民とは無関係にように思えるが、実はそうでない面が存在する。沖縄戦での証言では数多く出てくるが、住民をその様子や行動、言葉遣いなどによって、「スパイ視」し、拘束し、あるいは、殺害及び殺害の危機に陥れたことがあった。戦争状況というのは、そういう側面をもっているのである。ちなみに「捕虜取扱法」の「拘束」条文は次のようになっている。この条文からは、「捕虜」は必ずしも「敵」とは限らないのである。

新法
第4条 …出動を命ぜられた自衛隊の自衛官(以下「出動自衛官」という)は、武力攻撃が発生した事態において、服装、所持品の形状、周囲の状況その他の事情に照らし、抑留対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由がある者があるときは、これを拘束することができる。

関連条文
第88条  第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。

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