「武力攻撃事態法」今回の修正案の三つの特徴(2003・4)

△「武力攻撃事態」から「武力攻撃事態等」へ、何が変わったか?

(原案)第2条2 武力攻撃事態 武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)
 が発生した事態又は事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
(修正)→第2条2 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生す
 る明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。

[解説]
○ (原案)の不明瞭さが指摘されての説明の修正である。原案での「武力攻撃のおそれのある場合」を新たに「武力攻撃が発生する明白な危機が切迫していると認められるに至った事態」と言い換えているが、不明瞭さにおいてはなんら変わらない。また、「又は」以下を切り離して第3号として追加したのが次である。

[追加]第2条3 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。

○ (原案)の「武力攻撃事態」つまり、「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態又は事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。」を二つにわけ、「武力事態等」と「武力攻撃予測事態」に分けたものとなっている。原案の第2号の後半の説明は原案と同様である。

    このことによって「武力攻撃事態等」法が発動される事態は、三つの概念によって構成されることになった。
※(原案)の法案名称が「武力攻撃事態等法」になった。

 一つは「 武力攻撃が発生した事態」であり、二つ目が「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」で、三つ目が「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」となる。

◇ 曖昧さも総理大臣の判断次第

   概念が整理されて分かりやすくなったことは認めるが、内容は不変だから(原案)で指摘したことは、変えようがない。すなわち、「武力攻撃事態」の後半と新たに設定された「武力攻撃予測事態」は、その条文が指摘するように、その「事態」とは、「認められる」かまたは「予測されるに至った」事態である。

 「認める」や「予測される」という概念は、判断の根拠の強弱には多少の隔たりはあるが、その判断を下す者によって異なるのは当然である。Aが「認めた」と判断してもBは「認めない」となる事態が生じる。また、同一人でも、それぞれの判断の誤差が生じるのも当然である。つまり、「武力攻撃事態と認められる」か「武力攻撃事態と予測されるに至った」かは、判断する者の主観が大きく関わってくることは明白である。その者の国家観、国際感覚、情報の質と量によって判断が下されるわけだが、「武力攻撃事態等」法案では、その判断が総理大臣に委ねられている(しかも国会承認は事後となる)わけだから、(原案)で指摘したその危険性は何ら変化がない、と言えよう。         →武力攻撃事態法案」へ

△「不審船」も「テロ」も戦争有事?!

第24条
[追加]
2 政府は、前項の目的を達成するため、武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生等の我が国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、次に掲げる措置その他の必要な施策を速やかに講ずるものとする。
一 情報の集約並びに事態の分析及び評価を行うための態勢の充実
二 各種の事態に応じた対処方針の策定の準備
三 警察、海上保安庁等と自衛隊の連携の強化

[解説]
 「不審船」と「テロ」を有事法制にリンクした追加条項である。2002年の東シナ海の「不審船」問題や北朝鮮の拉致事件問題、そして、2001年9月11日のアメリカでのテロ事件等に対する国民の不安感を戦争を前提とした「有事法制」に絡めているのが特徴である。

    政府自体が、戦争を前提とした国家間の紛争の危険性は「少ない」としながら、これらの最近の国際不安に乗じて「有事法制」の理由づけを狙っていることは明白である。それは、(原案)の段階で、「有事法制」の根拠を国民世論によって失いつつあっただけに、特に北朝鮮との平和外交を棚に上げたやり方によって「有事法制」の動機付けにしようとしていることはあまりにも見え見えで政府の外交政策の貧弱さは否定できない。

 しかも、当初政府は、これら「テロ」や「不審船」問題は「有事法制」とはリンクしない、と表明していただけに、「有事法制」(原案)に対する国民世論がよほど気になったと思われるが、事柄の本質からすれば、この条文は「有事法制」の中で唐突の感を免れない。

思考停止の米べったり外交

 それほどまでにしても「有事法制」を(早く)成立させようとする政府の意図は何かを理解することは重要である。

    現在進攻中の国際状況の構図(米英による国連無視のイラク攻撃とそれを無条件で承認している小泉政権)でも明らかなように、自公政権は、自らの国家の理念もなく、ひたすらアメリカべったりの「思考停止」外交しかない。そのためには、常にアメリカと連動した国際社会での「位置」しか眼中にない。その「位置」を確保するためには、今回のアメリカのイラク攻撃のような国際法無視の戦争にも積極的に賛同し支援していくのである。

 近い将来身近に迫っているのは、「北朝鮮」へのアメリカの武力干渉が挙げられる。その時までに、自衛隊を参戦させる法制を完成させる必要がある。そのように考えるとつじつまが合うし、急ぐ法案審議に対しても最も合理的な筋道と言えよう。 

△「国民保護法制」は本当に国民を守るため? 

[追加]
(国民保護法制整備本部)
第24条 事態対処法制のうち第22条第1号に規定する措置に係る法制(次項において「国民の保護のための法制」という。)に関し広く国民の意見を求め、その整備を迅速かつ集中的に推進するため、内閣に、国民保護法制整備本部(以下この条において「整備本部」という。)を置く。
2 整備本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 国民の保護のための法制の整備に関する総合調整に関すること。
二 国民の保護のための法制の整備のために必要な法律案及び政令案の立案に関する
こと。
三 国民の保護のための法制の整備に関する地方公共団体その他の関係団体及び関係
機関との連絡調整に関すること。
3 整備本部は、国民保護法制整備本部長及び国民保護法制整備本部員をもって組織
する。
4 整備本部の長は、国民保護法制整備本部長(次項及び第七項において「整備本部長」という。)とし、内閣官房長官をもって充てる。
5 整備本部長は、整備本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
6 整備本部に、国民保護法制整備本部員(次項において「整備本部員」という。)を置く。
7 整備本部員は、整備本部長以外のすべての国務大臣(内閣総理大臣を除く。)をもって充てる。
8 整備本部に関する事務は、内閣官房において処理をし、命を受けて内閣官房副長官補が掌理する。
9 整備本部に係る事項については、内閣法にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
10 この法律に定めるもののほか、整備本部に関し必要な事項は、政令で定める。

[解説]
 「有事法制」は、「武力攻撃事態等法案」「自衛隊法改正案」「安全保障設置法改正案」が(原案)になっていたが、今回の修正によって「国民保護法制」が加わる条項が設定されたことになる。

 当初、二年以内で整備すると言われていたが、「有事法制」が国民の権利を侵害するのではないかという、圧倒的多数の世論に押されて条項が目に見えてきたのが今回の「国民保護法制」の条項であるが、法律としての整備は今後に待つ。
 ところで、この条項の根拠となる第22条第1号は次のようになっている。

一 次に掲げる措置その他の武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護するため、又は武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小となるようにするための措置
イ 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、消防等に関する措置
ロ 施設及び設備の応急の復旧に関する措置
ハ 保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置
ニ 輸送及び通信に関する措置
ホ 国民の生活の安定に関する措置
ヘ 被害の復旧に関する措置

[解説]
 名目上、「国民の生命、身体及び財産を保護するため」となっているこの条文が、法の発動段階でどう現実化するのかについては、これまで政府が表明してきた「国民保護法制輪郭」その他と関連しているので、その項目で触れることにする。
                                                                            →「国民保護法制」へ

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