国民の財産を米軍へ提供-「米軍用地特措法」
(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)(1952年・昭27・5・15)※法律名は略称、条文は整理して表現しています。(筆者)

  はじめに

   この法律は、「安保条約」に基づき、専ら米軍に対してどのように軍事基地を提供するか、がテーマになっている。有事法制の辿りつくところは、米軍と共にどう戦うかであるが、このテーマは何も今に始まったことではなく、その足跡を辿れば、戦後間もなく制定されたこの法律に行きつくことになる。

   憲法で保障された個人の財産を、「公共の福祉」という大義名分で収用したり使用したりしたのが「土地収用法」である。それは、戦後間もない1951年(昭26)に立法化されたが、政府は、その翌年、「米軍用地特措法」が立法化し、その手続きのほとんどを「土地収用法」によった。戦争のためにのみ使用・収用される軍用地が、はたして「公共の福祉」となり得るのか、多くの疑問と異論を押さえ込んだまま、国家が主体となって個人の財産を半ば強制的に米軍に提供する法制を敷いたのである。しかも、それは外国の軍隊-米軍に提供するためにである。

   国家権力が、個人財産をどのように取り込んできたのかを振り返ることは、有事法制の今後の動向を見定めるためにも重要であろう。

(目的)

第1条 日米安保条約第3条に基き米軍用に供するため土地等を使用又は収用する。

(定義)

第2条 「土地等」とは、土地、建物、これらに定着する物件、土地収用法第5条に規定する権利、建物にある設備、備品

※「土地収用法第5条に規定する権利」…地上権、永小作権、地役権、採石権、質権、抵当権、使用貸借、賃貸借、鉱業権、温泉を利用する権利、漁業権、入漁権、その他。

(土地等の使用又は収用) 

第3条 米軍用に供するため土地等を必要とする場合これを使用し、収用する。

(土地等の使用又は収用の認定の申請)

第4条 調達局長は、土地等を使用し、収用しようとするとき、使用認定申請書又は収用認定申請書を内閣総理大臣に提出し、その認定を受ける。

   ここから、国家が個人の財産を米軍のためにどのように手に入れるのかが始まる。なお、用語は現時点とは異なるが、条文上の用語をそのまま使用した。

米軍用地収用・使用の手続き(「土地収用法」の準用を含む-これが当初の手続きで後改正)

第一の手続き 第二の手続き
調達局長 調達局長
↓(調達局長の公告・通知後)
「使用認定申請書」
「収用認定申請書」
協議
所有者・関係人
調達庁長官
協議不成立 協議不能 事業施行妨害
内閣総理大臣
裁決申請(「裁決申請書」)※3
認定・却下 告示
都道府県の収用委員会
通知
「裁決申請書」
「添附書類」の写し
通知
通知 調達局長 公告
所有者・関係人
所有者関係人 「土地調書」 署名押印 市町村長 ↓(2週間内)
「物件調書」※1 意見書
・裁決申請のあった旨
・土地の所在、地番、地目
所有者・関係人 収用委員会
署名押印 ↓(2週間後)
署名押印拒否 公告・縦覧 (2週間) 審理開始 却下※4
市町村長 裁決※5
(市町村吏員)
署名押印拒否 補償金の払渡等
立会署名押印
都道府県知事 所有者・関係人
(都道府県吏員) 受取拒否等 土地等の引渡し等
立会署名押印※2 (供託)
引渡し等拒否
(請求)
市町村長
都道府県知事
引渡し等(代理)
所有権・使用権の取得

※1「土地調書」(第37条1項)「物件調書」(第37条2項)記載事項

一 土地の所在、地番、地目・地籍並・土地所有者の氏名・住所 一 物件所在土地の所在、地番・地目
二 収用し、又は使用しようとする土地の面積 二 物件の種類・数量、所有者氏名・住所
三 土地の権利者の氏名、住所、権利の種類・内容 三 物件の権利者の氏名、住所、権利の種類・内容
四 調書作成年月日 四 調書作成年月日
五 その他 五 その他
※実測平面図を添附 ※物件が建物の場合、建物の種類、構造、床面積等を記載し、実測平面図を添附

※2署名押印

第36条5 前項の場合において、市町村長が署名押印を拒んだときは、都道府県知事は、調達局長の申請により、当該都道府県の吏員のうちから立会人を指名し、署名押印させなければならない。

   市町村長は「…できる」であったが、都道府県知事は「…させなければならない」とあって、拒否出来ないようになっている。

※3「裁決申請書」(第42条)記載事項

一  事業計画書並びに起業地及び事業計画を表示する図面
左に掲げる事項を記載した書類(市町村別)
収用し、又は使用しようとする土地の所在、地番及び地目
収用し、又は使用しようとする土地の面積、土地にある物件の種類、数量
土地使用の方法及び期間
土地所有者及び関係人の氏名及び住所
損失補償の見積及びその内訳
収用又は使用の時期
三  土地調書及び物件調書又はこれらの写
土地所有者及び関係人との協議の経過説明書

※4※5「却下」と「裁決」との因果関係
「米軍用地特措法」によって、準用された「土地収用法」によれば、第47条では収用委員会が「却下」しなければならない理由が三つ挙げられている。それは、調達局長の申請が、@規定違反の場合、A事業告示の事業と異なる場合、B事業計画が申請書添附の計画と著しく異なる場合の三つである。これらは当然のこととして「却下」が下されるものであるが、問題は、次の「裁決」の条文である。第48条には次のようにある。

収用委員会は、前条の規定によつて申請を却下する場合を除くの外、左に掲げる事項について裁決しなければならない。
収用する土地の区域又は使用する土地の区域並びに使用の方法及び期間
損失の補償
収用又は使用の時期
その他この法律に規定する事項

   これによれば、前述した三つの却下理由以外は他のいかなることがあっても「却下」の理由とはならず、上記四項目についての裁決を下さなければならないのである。つまり、土地収用のためには有無を言わせない綿密な法の網が被せられているのである。

   法の網は、この条文だけでなく、個人の意思を乗り越えて市町村長や都道府県知事まで逆上り、何がなんでも土地を米軍のために使わそうとする日本の安保体制の異常さはこの法律ができた1952年に逆上るのである。

   「序の口」から「序二段」へ

   しかし、この法律はまだ序の口である。1972年の沖縄返還にともない、沖縄にある広大な米軍基地を復帰後も安保体制のなかに組み込むために、新法をつくり、旧法を改正(改悪)し、国家が文字通り無法を行ってまで、がむしゃらに米軍に貢献してきた歴史は長い。
                                                                           参照「公用地暫定使用法」「地籍明確化法」

   この法律には、さらに以下のような緊急避難的な手っとり早い土地収用と使用の条文がついている。

(裁決申請後、裁決があるまで)
調達局長→土地の全部(一部)の権利取得のため、土地所有者及び関係人の同意を得て→(調停)→収用委員会→調停案→調達局長・土地所有者及び関係人
(緊急施行)
調達局長→(申立)→収用委員会→(担保−調達局長)→許可(6月間)

   一点目は、「土地所有者及び関係人の同意を得て」という条件付きで、早く土地が使用できるための「調停」を「収用委員会」に促すものである。二点目は、さらなる緊急の時は、「担保」を提供することによって、収用委員会から許可を取るものである。

   最後は、「罰則」である。土地所有者または関係者に関するものに絞った。

第143条 裁決申請前の立入を拒み、又は妨げた者 3万円以下の罰金
裁決後、土地若しくは物件を引き渡さず、又は物件を移転しない者
第144条 収用委員会の実地調査を拒み、妨げ、又は忌避した者 1万円以下の罰金
第146条 審理に出頭を命ぜられた者が、正当の事由なく出頭せず、陳述せず、又は虚偽の陳述をしたとき 1万円以下の過料
資料の提出を命ぜられた者が、正当の事由なく資料提出せず、又は虚偽の資料を提出したとき


   あとがき

   この法は、その後、沖縄の米軍基地の使用・収用のために、二度の改正が行われ、現在の「有事法制」へつながる。これらについては別項で詳しく述べることにする。

                                 参照「米軍用地特措法改正版「米軍用地特措法再改正版」


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