「川とノリオ」(いぬいとみこ)の授業(中学1年)

1 指導目標

(1)一語一語を豊かにイメージ化し、表現を味わい登場人物の心情に触れさせる。
(2)かけがえのないものを奪われたノリオとじいちゃんの心情を読みとる。
(3)悲しみにうちひしがれながらも、強く生きるノリオとじいちゃんの姿をとらえる。
(4)戦争(原爆)の悲惨さを知り、戦争(原爆)を憎み、平和を愛する心を育てる。

2教材観

(1)教材の分析

    ノリオは川の声を聞いて育った。かあちゃんもじいちゃんも、そして、じいちゃんの生まれるもっと前から川は絶え間もなく、なつかしい川の声を響かせて流れている。

    この作品における川のもつ意味は大きい。人々の世が移り変わり、人々が育ち大人になり、そして死んでいく変遷を静かにみつめて流れている。しかし、ただ傍観的ではない。人々の生活と深くかかわっている川は、食器洗いの場であり、洗濯の場であり、そして、ノリオの遊びの場でもある。また、人々の喜怒哀楽を運び、そして、押し流していく人々の生活の歴史を象徴するものでもある。

    ノリオがさまざまな生活の綾を織りながら成長していく過程に、川は絶えずかかわりあって流れている。(前文)はこの川の位置─ノリオの生活の場を象徴的に描きだす。
場面は町外れ。どこの町かはしらないけれど、まだ清らかな流れを保つ田舎びた川の流れとともに、物語は展開していく。

    全体が一語一語圧縮された言葉の積み重ねで、詩的なリズムを保ちながら、無駄なく綴られている。したがって、一語一語をていねいにイメージ化させながら読みとっていかないと、物語の深いところに突き当たれない。そのような意味では、表現読みにも適した作品といえよう。

(2) 構成について

    川とノリオのかかわりと、ノリオの生活の位置を暗示する(前文)に続いて「早春」「秋」「また早春」「夏」「八月六日」「お盆の夜(八月十五日)」「また秋」「冬」「また八月六日がくる」の十章から成り立っている。

    時間と空間の変化の中で、絶えず静かに流れる川と、来ては去る四季の繰り返し、そして、川とつながった人々の姿が時代の大きな流れの中で情緒豊かにたんたんと表現されていく。そして、事件の展開の一こま一こまにおいては、読み手の疑問と推量が重なるように配置され、読み進めるにつれて結果が明確に示されるというように、細かい展開の工夫がなされている。

○早春──ノリオはまだ一歳前後の赤ちゃん。かあちゃんの背中のあったかいはんてんの中で、川のにおいをかぐ。川風はまだ冷たいがヤナギの芽はもうふくらんでいる。

○秋──ノリオのとうちゃんは、時代の大きな流れにのみ込まれるように戦争へつれていかれた。ノリオはまだ何も知らない。ノリオのかあちゃんは、目に涙を浮かべながら(この子を大切に育てていこう)と、ノリオを抱きしめる。

    戦争へ送り出す残された人々と戦争へ送り出される者のつらい悲しい気持ちが秋という季節から生み出されるススキの穂や赤トンボと重なり、「くらい停車場の待合室」でみごとに表象されている。

○また早春── 再びやってきた春。ノリオは二歳になった。一人で川で遊ぶ。川との無言の語り合いは、純粋なノリオの心の成長を暗示する。笑い、招き、語る川は、時としてノリオを川下へ押し流そうとするが、ノリオのかあちゃんがノリオを守ってくれる。とうちゃんのいない生活の中で、ノリオのかあちゃんはノリオを育てることや生活を支える労働のこと、そして、とうちゃんの安否を気づかって、日々やつれていく。しかし、まだノリオはそれを知らない。春の息吹のように、ノリオはしあわせな日々を送っている。

○夏── 何も知らないノリオにも、時代の大きな流れは押し寄せてくる。B29の不安は、ノリオの住んでいる町はずれのいなかにも押し寄せてくるようになる。暗い湿っぽい防空壕の中で、大人たちの不安をよそに、ノリオは外に出たいと泣きたてた。
ノリオのかあちゃんの脳裏には、B29の小さくなった光の点にとうちゃんの姿が重なり、戦争へのいきどおりが湧いてくる。川だけが静かに流れ、その音があたりの静かさに乗じて、一段と高く聞こえる。

○八月六日── ヒロシマに原爆が落とされた。「ドドド……ン」というひびきだけがノリオのいるむらに聞こえた。ノリオはその時だけ、じいちゃんにつれもどされたほかは、一日中川と遊んでいた。

    川でかあちゃんがくるのを待っていた。しかし、その日かあちゃんは来なかった。夜になって家に帰った。しかし、かあちゃんはもどらなかった。近所の人たちのざわめきでかあちゃんはヒロシマへ行ったことがわかる。

    じいちゃんが夜おそく、かあちゃんを探しにヒロシマへ行った。いてもたってもおれないじいちゃんの心の底に、かあちゃんの死が不安となって漂う。

○お盆の夜(八月十五日)── ヒロシマでじいちゃんは何を見たのだろう。そのことには何もふれられない。かあちゃんはもどってこない。遺体も戻ってこない。あきらめきれないじいちゃんも、終戦の日の夜、仏だんに新しい盆ぢょうちんを下げた。

    じいちゃんははじめて涙を落とす。悲しみと怒りをいっしょにかかえこんで、じいちゃんはノリオのぞうすいをたいた。息子をとられ、娘をとられた年老いたじいちゃんには、ノリオが不憫でならない。

    ノリオのかあちゃんの死へのあきらめか、その夜じいちゃんはノリオを抱いてねた。ノリオはじいちゃんの子になったのだ。

○また秋── とうちゃんが戦争につれていかれたと同じ秋。同じように川っぷちにススキの穂が銀いろの旗をふって、とうちゃんが帰ってきた。しかし、帰ってきたのは小さな箱だけだった。じいちゃんの悲しみがまた、一つ重なった。川はやはり静かにさらさらと流れていた。

○冬──何年かたった冬。なまり色の川。重くのしかかってくる空の下、ノリオは強く育っていた。アヒルっ子も元気だ。やがて春もくる。

    じいちゃんは働いた。からっ風の中を。自転車で通るタカオとタカオのとうちゃん。その姿にノリオは、自分と顔も知らない自分のとうちゃんを重ねる。

○また八月六日がくる── きょうも川は流れている。川の底からひろった青いびんのかけらから見る世界は青かった。太陽の光も、そして、かあちゃんがやけ死んだという思い出もすべて青かった。青く燃えるヒロシマの死体から飛び出るリンの火も。

     あたかもびんのかけらを通してみる太陽の光のように、ただ間をおいた淡い体験でしかない。地獄絵にも似たヒロシマのできごとに対して「年よりすぎたじいちゃんにも、小学二年生のノリオにも、なにが言えよう。」

    ノリオは目の前にいるやぎっ子のほし草がりを思い出す。「かあちゃんヤギをよぶようなやぎっ子の声で。」そして、ノリオはやぎっ子ととっくみあいをするまだ純情な男の子である。

    悲しみを心の底に宿しながら力強く生きているノリオにとって、「子どもの手をひいた女の人」は、かあちゃんへの思いを一層募らせる。そういうノリオの心を励ますかのように、「ザアザア」と川は一層ひびきを強くする。

    「サクッ、サクッ、サクッ、かあちゃんかえれ。サクッ、サクッ、サクッかあちゃんか えれよう。」
ノリオの心の叫びを、やさしく受けとめるように川は、「いっときも休まずながれつづける。」

(3)人物について

○ノリオとノリオのとうちゃん

 ノリオのとうちゃんは「秋」と重なっている。戦争へつれて行かれた時も、遺骨となって帰ってきた時も秋だった。
ノリオにとってのとうちゃんは、かすかな思い出にも登場しない。したがって、大きくなったノリオにとっても、とうちゃんは切実な存在としての実感がない。ただ、読み手にはかあちゃん(とうちゃんの出征の時ややつれていくこと)とじいちゃん(木箱となって帰ってきた時)を通して、とうちゃんのイメージが強く刻まれている。「冬」の場の「タカオとタカオのとうちゃん」に重なって、ノリオに対する心情が揺さぶられる。それは、ノリオが幼かっただけに一層強烈なものとなるだろう。

○ ノリオとノリオのじいちゃん

    じいちゃんは、川の描写(前文)やじいちゃんの手づくりのゲタ(「早春」)などと、前半はあまり重要なかわりあいをもって登場してこない。しかし、後半は、かあちゃんが殺され、とうちゃんも殺されていった戦争の残酷さと、それを知らないノリオのいたいけな姿とを結びつけ、戦争の悲しみや怒りを読み手に伝える役目を担って重要な位置を示す。

    読み手は、じいちゃんを通して、ノリオの心情に触れ悲しみを増し、じいちゃんを通して戦争への怒りを募らせていくのである。そして、ノリオが悲しみにおしつぶされることなく、力強く生きていく姿に接して、じいちゃんのやさしさにも触れるのである。

○ノリオとノリオのかあちゃん

     あったかくやさしいが、ノリオをひっぱたくかあちゃんのきびしさも一緒になって、ほろにがい思い出がノリオの心には焼きつけられている。川のにおいはかあちゃんのにおいだ。川のやさしさはかあちゃんのやさしさだ。そんなかあちゃんをうばいとった戦争をノリオは実感していない。

    しかし、成長していく中で、かあちゃんをうばった戦争。とりわけ原爆への怒りをもち始める。と同時にかあちゃんへの慕情も増していく。終章の「…かあちゃんかえれ。…かあちゃんかえれよう。」の心の叫びは、戻らぬ母への悲しみをからだいっぱいに表現している。と同時に、読み手には、「原爆のばかやろう。」と叫んでいるようにも聞こえてくる。

○ノリオ

    なぜ「ノリオ」なのか? 「ノリオ」は固有名詞としてのノリオではない。日本のしあわせに生きていた子どもたち、そして、戦争の、原爆の犠牲となった日本の子どもたちの代名詞である。カタカナ表記はそれを意味しているであろう。

    顔さえしらずに戦争へ連れて行かれ殺されてしまった日本のとうちゃんの子、原爆で殺されてしまった日本のとうちゃんの子、原爆で殺されたやさしくあったかくそしてきびしく育んだ日本のかあちゃんの子、そして、悲しみをこらえ、たくましく育っていった日本の子、そういう子どもたちの総称としてノリオは描かれているとみたい。

(4)教材化の視点

[題名]

@川は絶え間なく流れていくものである。
A川は悠久なる自然の象徴である。
Bノリオは小さな男の子であろう。
C川とノリオのどんなできごとなんだろう。
D川とノリオはどんなつながりがあるんだろう。
E川とともに成長していくノリオを描いている。

[前文]

@川が実に豊かに描写されている。
A 一語一語をていねいに読みとらせ、イメージ化させながら「川」と「川とともに生きてきたノリオ」を読みとらせたい。

B「 町はずれをゆく、いなかびたひとすじの流れ」…場面は町はずれ、田舎なんだな。あまり大きくない川、小川かもしれない。
C「すずしい音をたてて、さらさらとやまずに」…澄みきった清らかな川の流れ。

D「日の光のチロチロゆれる」…春ののどかな日の光が見えて来る。
E「茶わんのかけらなどをしずめたまま」…清らかな小川であり、食器を洗ったり、洗たくをしたり、それは生活と深くつながってきた川である。

F「川はいっときのたえまもなく…ひびかせせせらぎのようななつかしい……」…川はじいちゃんの生まれる前から、昔からあったんだ。清らかな、豊かな自然があったのだ。川は昔から、人々の生活を歴史を見てきたのだ。「さらさらというせせらぎ」は現代の自然の中から消えてしまった言葉であり、読み手にもなつかしい小川のイメージである。

G「春にも夏にも冬の日にも、ノリオは川の声を聞いた。」
「むかしながらの川の声を──(ノリオは聞いた)」…川とともにノリオは育った。川は幼いノリオの遊び場であっただろう。川と親しんできたノリオの姿が見える。貧しいながらも豊かで素朴な自然の中で育ったノリオの姿が想像される。ノリオを見守ってきた川、この川とともに、ノリオはどう成長していくのだろうという、次への期待感をもたせる。

H 表現上の特徴をつかませる。
ア、擬声語の美しさ…さらさら、チロチロ
イ、余韻のある結び方…茶わんのかけらをしずめたまま。川の声を──。
ウ、全体に詩的なリズムがある。

[早春]

@ 春まだ浅い冷たさの残る中に、もう生命の息吹が感じられる明るく美しい季節である。
A土臭い、春のにおいをもつ川のにおいはあったかいかあちゃんのにおいでもある。
B早春の美しさ、明るさ、春の息吹とあったかい愛情に包まれて、きびしいけれどもしあわせに育つノリオの姿を読みとらせたい。

C「あったかいかあちゃんのはんてんの中で、ノリオは川の思いをかいだ。」
「あったかい母ちゃんのせなかの中で、ノリオは川のにおいをかいだ。」…くりかえしをおさえる。川のにおいはあったかいかあちゃんのにおいでもある。ノリオは生まれたときから、川のにおいをかいで育ってきた。川はノリオのすべてを知っている。

D「ほっぺたの上のなみだのあとに」…泣いてもおろしてもらえない。一日中、せなかの中にいるノリオ。生活のきびしさが見える。でも、あったかいかあちゃんのはんてんの中なのである。しあわせなノリオが見える。

E「ヤナギの銀色の芽がもう 大きかった」
「土くさい春のにおい」…素朴な純粋なにおい。春の息吹。
F「川風がすうすうとつめたかった。」…春浅い冷たさなのか。

◎次第に忍びよる悲しさの伏線としてとらえるのか。
◎悲しさとあったかい愛情の対照。

[秋]

@「まっ白いノボリ」…戦争かな。
A「いってしまった」…どこへ、遠いところ。
B「とうちゃんのかたい手のひら……いたっけ」…無理に引き裂かれた別れ。
C「橋の上」…どんな橋。

D「町の上のひろいひろい空」…ノリオの場所、町からそう遠くない。
E「きつくきつくノリオをだいていた。」…寂しさ、悲しさをこらえてこの子を大事に育てていこうとの決意。

F「ぬれたようなかあちゃんの黒目」…別れの寂しさと不安
G「秋」…ススキの穂、ゆうやけ空、赤とんぼ、暗い待合室、とうさんとの別れの悲しみを彩る秋の風物。

[また 早春]

@「また」のもつ意味
○前章の早春を思い起こす。○あたたかいかあちゃんの背中の中でかいだ川のにおい、土くさい春のにおい。○とうちゃんに去られた寂しさ…あれから一年。
A この章は一日中川で遊ぶノリオが描かれている。

B 表現
○( )の中の川のささやきが繰り返し語られている。○一カ所だけかあちゃんのことばらしいのがあるが「 」でないのは疑問。

C 生活の様子
ア、「おじいちゃんの手づくりの栗の木のゲタ」…貧しさ、おじいちゃんのノリオに注ぐ愛。
イ、「かあちゃんは『ハイキュウ』によばれていった。」…食糧事情も悪くなり、日用品や食料品が配給制になり、戦争が激しくなることを予想させる。
ウ、「かあちゃんは日に日にやつれたが……」…とうちゃんのいない暮らし。生活もだんだん苦しくなる。
エ、「川とノリオと、かあちゃんのこんなひとつづきの『追いかけっこ』は戦いの日の間つづいていた」…川はノリオとかあちゃんにとって生活の場である。汚れたものを洗濯する川、大根や野菜などを洗う川

D 「ノリオは小さな神様だった。金いろの光につつまれたしあわせな二歳の神様だった。」という言葉の響きの中にやがてくる悲しみや不幸を暗示しているようである。主題への伏線としておさえたい。

[夏]

@「かなしそうな役場のサイレン」…空襲警報→戦争。
A 「防空壕」…穴ぐら・しめっぽい、せみの声も川の音も聞こえない、暗やみ→ノリオは出たいと泣く。戦争の怖さを知らない。

B「とっきんとっきん、かあちゃんの胸」…恐怖
C 「青空の不思議なもの」…何だろう→爆弾? 飛行機雲?
○「キラリキラリ遠くなる光の点」
○「白いすじ」…たばこのけむりのよう
○「いくすじか」…さざ波のあとのように。

D「かあちゃんのひきしまった横顔」…緊張感、恐怖、ただごとではない。とうちゃんはどうなる。
E「せみの声はやんで川の音だけがはっきり」…空襲が去ったあとの静けさ。生あるものの音はない。関係なく流れる川→悠久の響きにつながる。

[八月六日]

@ 「八月六日」…忌まわしい原爆が広島に投下された日、ノリオに何が起こったのだろう。いったい、ノリオとどうかかわるのだろう。
A 「お米一升とかえてきたノリオの黒いゴムぐつ」
「ノリオのまっさらのぼうし」
「ノリオの黒いパンツ」…川は流していった。大事な食糧とかえて手にした品物を取り戻すかあちゃんがいない。みんな流れていくばかり。暗い不吉なものを暗示する。

B「かあちゃんはきょうはこなかった」…ノリオを放っておくほどののっぴきならぬ用事ができたのか。どこに行ったのか。
C 「あさのうち、ドド……ンとひびいた何かの音」…遠くで聞こえる大砲の音
D 「ねむたく暗いような目の前にアカやアオの輪がぐるぐるまわる」…一日中、川を相手に遊んだノリオ。疲れている。ノリオの目に川の波紋がぐるぐる回る。

E 「夜がきてノリオは家へ帰ったが、かあちゃんはもどってこなかった。近所の人がせわしく出入りする。おそろしそうな人々のささやきの声」…近所の人々がせわしく出入りするということは、何事が起こったのだ。かあちゃんに何かが起きたんだ。口にすることをはばかるような恐ろしいこと。
F 「黒いきれ」…灯火管制の黒い布が不吉な思いをさせる。「喪」の黒い布の早合点も。

G「じいちゃんが夜おそく出かけていった。」…ヒロシマの悲惨なようすが人々から伝わる。かあちゃんの死を信じることができず、この目で見たい(確かめたい)のであろう。人に知られずにこっそり出かけた。「じいちゃんは」と書きそうだが、やっぱり「じいちゃんが」がふさわしい。事実表現による表現の効果として。

[お盆の夜(八月十五日)]

@ 「あたらしい盆ぢょうちん」…ノリオのかあちゃんを供養するためのものだろうか。
じいちゃんはヒロシマに行き、その悲惨さを目の当たりに見て、かあちゃんが死んだことをあきらめたのだろうか。

A「ときどきじいちゃんの横顔が、ヘイケガニのようにきゅうとゆがむ」…じいちゃんにとってあの原爆でかあちゃんを亡くしたことが耐えがたく、時々思い出しては戦慄を覚えるのである。

B「ゲタづくりのじいちゃんのふしくれだった手がぶるぶるふるえて」…原爆でかあちゃんを亡くしたじいちゃんの戦慄と激しい怒り。
C「ノリオはじいちゃんの子になった。タバコくさいじいちゃんにだかれて寝た」…かあちゃんを亡くしていっそう年老いたじいちゃん。まだ二歳のノリオは乳離れしないであろうに。戦争に母親を奪われ、不器用なしかもタバコくさいじいちゃんを母親がわりに抱かれて寝るのである。悲しく痛ましい。

[また八月六日がくる]

    これまでの各章の小さな主旋律が、微妙に絡みあって一つの大きな流れとなってノリオの置かれた状況とノリオの生きざまを見せてくれる。
そのいくつかの主旋律をおさえて、戦争の残した傷跡と、その中で明るく生き抜くノリオの姿をしっかりと読みとらせたい。

@「びんのかけら」…時間の隔たりを表すかのように、ここに安らぎがある。すべての悲しみを薄めてくれるように「びんのかけら」から見るノリオの世界は「うす青かった。」
A「いくたび目かあの日がめぐってきた。」…この文で読み手は、あの悲惨な日の思い出を想起させる。ノリオのおぼえているのは「ドド……ン」という原爆の炸裂音だけである。しかし、「……死んだという。」「…燃えていたという。」という間接表現で、ノリオが母の死やヒロシマの状況をじいちゃんから聞いて知っていることが、読み手に伝わってくる。そして、「とうとう帰ってこないのだ。」というとどめをさすように、読み手にとって(ノリオやじいちゃんにとっても)絶望的な現実が突きつけられる。

B「年よりすぎたじいちゃんにも、小学二年のノリオにもなにがいえよう」…作者の今まで内に秘められていた原爆への怒り、戦争への憎しみが、せきを切ったように吹き出る。(じいちゃんやノリオに代わって叫ぶのは誰か)と問われているようだ。
この部分はきちっと押さえて読みとらせたい。そして、子どもたち自らが、(ノリオはかわいそうだ)というとらえ方をのりこえて、次の段階へのぼるあしがかりとしたい。

C「すぐに眩しい日の光が、ノリオの世界にかえってきて、ノリオはしごとを思い出す。」…ノリオの現実は、いつまでも過ぎ去った暗い悲しい世界に浸っているばかりではない。小学二年とはいえ、やぎっ子の草刈りという日課がある。ノリオはそれゆえに明るさをもっていよう。「サクッ、サクッ」という草を刈る音と「ミェエ、ミェエ」というやぎっ子の声が調和して、ノリオを見つめる読み手の心に一種の安堵感を与える。

D「サクッ、サクッ、サクッかあちゃんかえれ
サクッ、サクッ、サクッかあちゃんかえれよう。」…ここにすべてが集約されている。草をかる音、「かあちゃん かえれ」「かあちゃん かえれよう」と心の中で叫ぶノリオの声。胸がつぶれるほどに痛ましいノリオの現実をこの二行の中で読みとらせたい。

○これまでの悲しみや怒りを思いっきり、この二行の中に昇華させたい。そして、さらに、その中から、ノリオが強く生きていくであろうことを感じ取らせ、子どもたちの生きる姿勢の糧としたい。

    そのことは、最終行の「川は日の光を照りかえしながら、いっときもやすまず流れつづける」という川の配置の中にも、象徴的ににおってくることである。

E表現が圧縮され、読み手の想像の世界を広げる可能性を随所に織り混ぜながら展開していくこの小説は、読み手の一人ひとりが、自分のすべてを出し尽くした読みを可能にしてくれる。とかく感情に押し流されてしまいかねない展開になっているが、そのようなことを押し止め、読み手を客観的な立場に引き戻し、その視点からもノリオを見つめる「間」を与えてくれるのが川である。

    したがって、この小説の読みで、川を忘れてしまった読みをしてしまうと、読みの深さは阻害されてしまう。あらゆる描写が川の描写と重なりながら、なおかつ、川は川でしかない、というもう一つの視点も忘れてはなるまい。

(5)テーマについて

    町はずれで、毎日の生活を貧しくもしあわせにひっそりと送っている人たちを巻き込み、苦しみと悲しみ、そして、死への谷底に突き落としてしまう戦争、そして、原爆。

    家族を失った悲しみの中で残された者の悲惨さを残した戦争、そして、原爆。それらへの怒りをじいちゃんやノリオに代わって、告発しなければならない。

    高まる叫び、深まる悲しみを、川はいっときの絶え間もなく流れ、時には小さくやさしく、時には大きく激しく呼びかけてくる。川の流れは永遠に続く。

 一時の叫びや悲しみでは、戦争の悲しみや惨めさをくいとめることはできない。いっときもやすまず流れる川のように、時にはやさしく、時には激しく叫びかけあって、じいちゃんやノリオに代わって叫び続けなければならない。

3 指導計画および留意点

立ち止まり 範 囲 読 み の 目 標 留 意 点
1 @ 題名読み 1川のイメージをとらえる。
2ノリオについて予想させる。
ア、──と──という接続詞に気づかせる。
イ、ノリオというカタカナ書きに注意させる。
A 前文 1川のイメージをより具体的なものにする。
2川とノリオの関係について予想する。
ア、川の描写の一語一語によってていねいにイメージ化させる。
イ、川とノリオを比べながら川とノリオがとういう関係によって成立しているか予想さこせる。
[表現]
※川のことば─町はずれ、いなかびた、すずしい音、チロチロ、茶わんのかけら、いっときのたえまもなく、せせらぎのような、なつかしい、
※擬態語─さらさら、チロチロ
※余韻のある結び方─…まま…、川の声を…。
B 早春 1生活はきびしいがあったかい愛情に包まれて育つノリオの姿を読みとる。 ア寒暖、明暗の相対をはっきりとおさえて、その象徴としての暖かさ、冷たさ、幸せとしのびよる悲しさの伏線を比較するとこによってノリオの育つ生活とノリオの姿を読みとらせる。
[表現]
※貧しい生活の中でもしあわせなノリオのことば─川のにおい、せっせと、なみだのあと、すうすうと、つめたい、銀いろの芽、かあちゃんのせなか、土くさい、
※感触として伝わってくることば─あったかい、すうすうと、※具体化したいことば─川のにおい、春のにおい
2 @ 1幼いノリオを残して戦場へ送り込まれるとうちゃんの心情を読みとる。
2かあちゃんの心情を読みとる
3それらのことをまだ知らないノリオの姿をイメージ豊かにとらえる。
ア、一語一語のもつ意味の深さをていねいに読みとらせる
イ、象徴的な表現を具体的なイメージに置き換え、その意味するところをつかませる。
[表現]
※心情に触れることば─…しまった。いっときも、さすていたっけ、きつくきつく
※象徴的なことば─旗、かたい手のひら、それからも、ほほけた旗、ひろいひろい空、ほそい手、ぬれたような、くれかけた町、白くほほけた、
※時代状況をつかむことば─まっ白いノボリ、貨物列車、すえたにおい、くらい停車場、
3 @ また早春 1かあちゃんの苦労の中ですくすく育つノリオのしあわせな日々を読みとる。
2かあちゃんの心情に触れる。
ア、一日中川で遊ぶノリオの姿と川の擬人化によるノリオとの対話などから、ノリオのしあわせな日々を読みとる。
イ、文章が長いので焦点化する。
[表現]
※気をつけさせたいことば─川のささやき、日に日にやつれた、戦いの日のあいだ、小さな神さま
※時代状況をつかむことば─ハイキュウ、戦いの日、
4 @ 1いよいよさしせまってくる戦争の危機の中でそれらと無関係であるべき人々の気持ちをノリオを通してとらえる。
2かあちゃんの心情をつかむ。
ア、穴ぐらにはいっているノリオや人々のようすを詳しく想像させる。
イ、ノリオのかあちゃんの心情をつかむ。
[表現]
※時代状況つかむことば─役場のサイレンがほえだす、なにごともなくて、穴ぐら、防空壕、B29、ずきん、
※様子をつかむことば─ぐずって、キラリキラリ、スルスル、さざ波、とっきんとっきん、ひきしまった横顔、川の音だけが、かなしそうな、光の点、
5 @ 八月六日 1かあちゃんを失ったノリオの姿をありありと思い浮かべる。
2じいちゃんやとなりの人々のようすをつかむ。
3じいちゃんの思いを想像する。
ア、また早春の時のノリオとこの章のノリオを比べながら、ノリオのおかれている場面をはっきりとつかませる。
イ、近所の人の動きやじいちゃんき動きからかあちゃんの身の上に何がおきたのかを予想させる。
[表現]
※ノリオのかあちゃんへの思いをかりたてることば─お米一升とかえてきた、まっさらのムギワラぼうし、きょうはこなかった、帰ってこない、いったきり、遊びにつかれていた、ただかあちゃんをまっていた、あったかいあの手、もどってはいなかった、
※人々の動きをつかむことば─せわしく、ささやきの声、話がつづいていた、夜おそく、
※時代状況をつかむことば─お米一升、ドド…ン、ひびいた何かの音、ヒロシマ、黒いきれをたらした電燈、
A お盆の夜 1ノリオのかあちゃんを失ったじいちゃんのやるせない苦しい心情をとらえる。 ア、じいちゃんのようすや行動の一つ一つに気をつけながらていねいにイメージ化し、じいちゃんの心情を深くとらえさせる。
[表現]
※ようすをうかべることば─ヘイケガニのように、ぎゅうとゆがむ、ごましおのひげ、ふしくれだった手、ぼしゃぼしゃと白くなった髪、ぶるぶる、じいちゃんの子、
※じいちゃんの心情をつかむことば─あたらしい盆ぢょうちん、じゅっとやけるくさいヤニのにおい、ぽっとりひざにしずく、ぼうっと明るい、ぶるぶるふるえて、じいちゃんの子、
6 @ また 秋 1ノリオのとうちゃんが戦死したことをとらえる。
2じいちゃんの二重の苦しみをとらえる。3ノリオの姿を思い浮かべる。
ア、短い文章の簡潔な表現の中からていねいにイメージ化させ、じいちゃんの思いを深くつかませる。
[表現]
※象徴的なことば─あらし、ススキがまた、旗、小さな箱、う、うっとキセルをかんだ、
※凝縮されたことば─ううっ、
A 1つらいきびしい冬の生活のようすの中にも、ノリオにとっては何か夢があることをつかむ。
2その夢が何であるかを予想する。
ア、冬のきびしさとやがてやってくる春の暖かさを比べながらノリオの生活やノリオの気持ちに触れさせる。
イ、つらい中で悲しみと喜びをもつノリオについて、詳しくイメージ化させる。
[表現]
※冬のことば─こおりつく、ナマリいろ、からっ風、しみる、ヒューンと泣く、
※春のことば─競争だ、元気だぞ、生きた二点、もう青い、大きな、たのもしい、待っている、
7 @ また八月六日がくる 1両親を失ってしまったノリオの切ない思いとそれをのりこえていこうとするノリオのけなげな強さを読みとる。
2ノリオとじいちゃんの生活のようすをつかむ。3集約された終章と全文との関係づけから話し合いを深める。
ア、母を慕うノリオのいたましい心情をノリオの幻想のような思い出の中からていねいに読みとらせる。
イ、ノリオのけなげな生きる強さを現在のノリオの行動から豊かにイメージ化させ、ノリオの心情に迫らさせる。
[表現]
※やるせない心情のことば─おりかさなって死んでいる人々のむれ…、子どもをさがすかあちゃん、かあちゃんをさがす子どもの声、かあちゃんヤギをよぶような、子どもの手をひいた女の人、かあちゃんかえれ、かあちゃんかえれよう、
※せつない心情をやわらげることば─死んだという、燃えていたという、こないのだ、サクッ、サクッ、いっときも休まず流れつづける、
※作者の気持ちがにじみ出ていることば─じいちゃんにもノリオにもなにがいえよう、
8 全文 1表現読み
ア、ノリオとじいちゃんを通して、とうちゃん、かあちゃんを失ったノリオやじいちゃんのつらい悲しい気持ちに同化する。
イ、同時に客観的にみつめさせ、父や母を戦争で失った者への自分の受け止め方などについても表現する。
2感想のまとめ
ア、ノリオについて、じいちゃんについて、などと書く。イ、戦争とか原爆というテーマに絞って感想のまとめにする。
ア、日常的に書かせる「授業のまとめ」を活用させる。
イ、各時間ごとの「授業のまとめ」を集約させる。


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