証言14

青酸カリを混ぜたミルク

                                  津波古(旧姓岸本 ・十七歳・師範生)

 五月二十五日夕方 島尻に撤退という命令がでましたが 雨は降るうえ弾も激しく夜十時になっても壕脱出のチャンスが掴めません。 十四、五人が入口で外を窺っていました。

 その中やっと雨も止み砲弾も途絶えたので出ようとしたら 何時も水を汲んでいた井戸から二百米も離れてない所で 敵兵が半裸で カンテラも灯けて ゆうゆうと塹壕を掘っているのです。

    衛生兵が「今なら弾は来ないぞ。出るなら今だ!」と私達を押し出しました。仲里順子さんは真っ青になり「アメ リカ兵に射たれるから 私は行かない」と 壕の奥に引っ込んだのです。皆そのどさくさに出てしまって 二人だけが取り残されてしまいました。

 壕の奥にはランプが灯り 重傷患者が坤いています。「学生さ−ん 水下さい」と 弱々しい声で叫んでいるのです。ためらっていたら 四、五人の衛生兵が入って来てそこらの空缶を集め 木箱の上に並べ 練乳缶を開けて中に水を足しています。

    「お手伝いしましょうか」と かけ寄りました。そしたら凄い表情で私を睨んで「まだいたのか!今頃そんな所にいたら たたっ斬るぞ!敵はそこまで来ているんだ。何しているか!」と怒鳴ったのです。

    私は壕入口に後ずさりしました。衛生兵は私達に背を向け ミルクを調合し 両手に四、五個ずつ持って 壕の奥や横壕に入って行きました。

    壕内はシーンとしていましたが しばらくすると 急に興奮した叫び声が響いたのですよ。  「これでも人間か! お前達のやることは!」 両足切断の患者がわめいているんです。衛生兵はその患者を引きずって 奥の方へつれて行きました。

  ミルクには青酸カ リが入っている と感づいて騒ぎ出したのだと思います。足手まといになる重傷患者は青酸カ リ入りのミルクで処置するのだ と兵隊が以前話していたのを思い出し 急に私は足もガクガク震え寒気がしてきて 髪の毛穴までふくれる思いです。

    もう私達は それを見たからには殺されるかも知れないと怖くなって 仲里順子さんの手を引っ張りました。「順ちゃん 早く 早く」と叫んで 壕を飛び出 しました。何も分からない順子さんは ただうろたえるだけで「待って 待って どうしたの」と 転げるようについてきました。

          「公式ガイドブック ひめゆり平和祈念資料館」(ひめゆり同窓会)から

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